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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー60

2020.04.25.08:44

93

チベット自治区 イマルの寺院

ケイトは眠い目を開けて、周囲に視線を巡らせた。
夜ではないが、完全に朝というわけでもない。
日の出の最初の光が、アルコーブの大きな窓からうっすらと差し込んでいた。
ケイトはそれから逃げるように窓に背を向け、朝の訪れを無視した。
そして、デヴィッドに頭を寄せて目を閉じた。
「起きてるんだろ。」彼が言った。
「起きてないわ。」ケイトはうつむいてじっとした。
デヴィッドが笑った。
「返事をしているじゃないか。」
「寝言よ。」
デヴィッドが小さなベッドの上で、体を起こした。
長いことこちらを見つめていたが、やがてケイトの顔にかかる髪を払った。
ケイトは目を開け、デヴィッドを見つめ返した。
期待があった、彼が身をかがめて、そして…。
「ケイト、行くんだ。」
ケイトはがっくりして寝返りを打った。
言い争いはしたくなかったが、譲るつもりもなかった。
彼を置き去りにはしない。
だが、いったいどこから出てきたのか、ケイトが嫌だと口にする前に、ミロが姿を現した。
いつものように明るい表情を作っているが、その顔や動きにはどこか疲れた様子が感じられた。
「おはようございます、ドクター・ケイト、ミスター・デヴィッド。ミロと一緒に来てください。」
デヴィッドが彼の方を向いた。
「1分だけ待ってくれ。」
若者はこちらへ足を踏み出した。
「1分だって待てません、ミスター・デヴィッド。チェンが時間だと言っています。」
「時間?なんの?」
デヴィッドが聞いた。
ケイトは体を起こした。
「出発する時間です。そう…。」
ミロが眉を上げて見せた。
「脱出作戦ですよ。ミロの秘密の計画です。」
デヴィッドは首を傾げた。
「脱出作戦?」
新たな道が開けるかもしれなかった。
少なくとも、デヴィッドとの口論は先送りにできる。
ケイトはチャンスに飛びついた。
戸棚に駆け寄り、抗生物質と痛み止めのボトルを集めた。
傍でミロが布の袋を広げてくれたので、そこに薬を放り込んで小さな日記帳も入れた。
いったんは戸棚から離れたが、すぐに戻って念のためにガーゼと包帯とテープも掴み出した。
「ありがとう、ミロ。」
背後にいるデヴィッドが立ち上がった途端に、よろめく音がした。
急いで腕を伸ばし、倒れる寸前に彼を捕まえた。
袋に手を入れて痛み止めと抗生物質を取り出し、抵抗される前にそれをデヴィッドの口に押し込んだ。
そして水なしで錠剤を飲み込んでいる彼を、半分引きずるようにして部屋から連れ出し、屋外の渡り廊下に向かった。
太陽は今や全速力でその姿を現わそうとしていた。
廊下の床板のすぐ先、山の斜面に、パラシュートが広がっているのが見えた。
いやパラシュートではない、熱気球だ。
全部で3つある。
ケイトは首を傾げて気球の一つを観察した。
てっぺんが緑と茶色に塗られていた。
迷彩柄のようにも見える。
これは…木だ。
森を描いているのだろう。
面白い。
音がした。
鉢の羽音。
近い…。
デヴィッドがこちらを向いた。
「ドローンだ。」
彼はケイトに回していた腕を下ろし、彼女を押した。
「気球に乗れ。」
「デヴィッド。」
ケイトは反論しかけた。
「だめだ、乗れ。」
彼がミロの腕を掴んだ。
「俺の銃、初めてここにきたときに持ってきたやつだ、まだあるか?」
ミロが頷いた。
「あなたの持ち物は全て。」
「取ってきてくれ。急ぐんだ。高い場所に上がる必要がある。展望デッキで会おう。」
ケイトはもしかしたら最後にデヴィッドが戻ってきて、そして…と思った。
が、彼は片足をひきづりながらまっすぐ寺院を抜け、這うようにして山の斜面にある石の階段を登り始めてしまった。
気球に目をやり、またデヴィッドの方を向いた。
彼はすでに去っており、階段には誰もいなかった。
ケイトは急いで廊下を進み、木製の螺旋階段がある端まで行った。
階段の下を覗くと、 巨大な気球が見えた。
下のデッキでは五人の僧侶がケイトを待っていた。
こちらに手を振っている。
ケイトの姿を確かめると、そのうちの2人が一1つ目の気球に飛び乗ってロープを外し、デッキを押して宙を漂い始めた。
山から離れていく気球の上で、僧侶たちがこっちを見ろと言うような仕草をした。
彼らは紐や炎をいじって気球の動きを調整し、どうやって操縦するか、ケイトに手本を示そうとしていた。
1人がケイトに頷き、ロープを引いてバスケットの側面にある袋を落とした。
瞬く間に気球が上昇して、山から遠く離れていった。
美しい、静かな飛行だった。
それにあの色、赤と黄色の地の所々に、青と緑の斑点が見える。
まるで大きな一匹の蝶のように、それは高原の彼方へ飛んで行った。
二つ目の蝶の気球にもすでに僧侶2人が乗り込んでいたが、彼らはロープを外そうとしなかった。
どうやらケイトを待っているようだ。
五人目の僧侶が、3つ目の気球に乗るようにケイトに合図した。
あの、天辺に森が描かれている気球だった。
ケイトはその気球の下半分が雲の模様になっていることに気づいた。
青と白に塗られている。
これならドローンがある程度離れた下方から見たときに、空と見分けがつかないだろう。
もしドローンが上方にいるなら、今度は森しか見えなくなるはずだ。
とてもよく考えられている。
ケイトが雲と森の気球に乗り込むと、前方で二つ目の蝶の気球が出発した。
最後までデッキに残った僧が、ロープを2本引いてケイトのバスケットの袋を落とし、ケイトを空へ送り出した。
気球は不思議な夢の中の出来事のように、音もなく上昇し始めた。
振り返ったケイトの目に、広い高原の上空に浮かぶ何十もの、いや何百もの…気球が飛び込んできた。
視界いっぱいに広がる美しい色が、上へ上へと舞い上がり、朝日を浴びて輝いている。
寺院という寺院が、一斉に気球を放ったのだろう。
ケイトの気球は次第に速度を上げて上昇し、乗り込んだデッキからも、寺院からも離れて行った。
デヴィッド…。
ケイトが操縦用の紐を握った時だった。
爆発の衝撃が気球を揺らした。
一瞬にして山の側面が消滅したように見えた。
気球が激しく震え、木の破片や石が空を切って飛んだ。
煙と炎が上がり、宙を舞う灰がケイトと寺院の間を埋め尽くした。
何も見えなかったが、気球は無事のようだった。
ドローンのミサイルは寺院を挟んだ反対側の山腹に、撃ち込まれたのだ。
必死で気球をコントロールしようとした。
上昇スピードが速くなっていた。
速すぎる。
また音がした。
銃声だった。
上から聞こえてきたようだ。

続く→

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衝撃のニュースです・この意味を考えねば…3週間外出していない人が感染

2020.04.19.08:50

外出禁止が続く米国に衝撃 自宅に3週間こもり続けた女性が新型コロナに感染

https://encount.press/archives/39305/


多くの州で外出禁止令が出ている米国、本人は「ほとんど接触はなかった」も…

 米国では新型コロナウイルス感染が拡大の一途を辿り、58万人以上の感染者と2万3000人以上の死者が報告されている。多くの州で外出禁止令が出される中、3週間自宅にこもり続けた女性が新型コロナウイルス陽性と診断され、米国に衝撃が走っている。

「シャーロット在住の女性が自宅から3週間外出しなかったが、新型コロナウイルスで陽性反応に」と報じたのは地元テレビ局「WCNC」(電子版)だ。

「心の底から恐怖を感じた。これは今まで体験した中で最悪の病気で、最大の恐怖体験でした。人工呼吸器についての話も聞いていたので、本当に恐ろしい。自宅隔離のままで待機できることを祈っています」

 新型コロナウイルスに感染してしまったシャーロット在住のレイチェル・ブランマートさんは、不安な気持ちをこう吐露したという。

 ブランマートさんは保険当局の指示に完璧に従っていた。3週間前に薬局に出かけた以外は一度も外出せず。配達物もゴム手袋で受け取り、夫とも別の部屋で暮らすという徹底ぶりで自主隔離を貫いていたと記事では伝えている。

 だが、ほんのわずかな隙があったかもしれない。

「WCNC」は「ブランマートは薬剤師と夫以外に、玄関に食料品を届けたボランティアの女性と会ったと話している。女性はその後、新型コロナで陽性と診断された」とレポート。本人は「ほとんど接触はなかった。彼女に触ってもいない」と信じられない様子で明かしており、テイクアウトも食べていないという。それでも、感染してしまった。咳、高熱、頭痛、呼吸不全に苦しみ、数日後に新型コロナウイルスの検査を受ける条件をようやくクリアしたというのだ。

「こんな経験はしたことがない。インフルエンザにかかったことはあるけれど、これは全く違う。全く別のモンスターよ」とブランマートさん。3週間の徹底した自主隔離も通用しなかった新型コロナウイルスの脅威の伝染力に、米メディアも衝撃を隠せない。感染拡大が深刻なニューヨークの地元紙「ニューヨーク・ポスト」も「ノースカロライナの女性が3週間自宅にこもっていたにも関わらず、新型コロナウイルスに感染する」と報じている。

^^^^^^^^^^

そして、それは5Gであるとささやかれていますよ…。

第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー59

2020.04.19.08:47


92

インド、ニューデリー  クロックタワー支局本部 危機管理室

「彼らを発見したようです。」
技術者が言った。
「確かか?」
ドリアンは聞いた。
「地上捜索班の2人が、この地区を通過する列車を目撃したという地元住民を見つけたんです。」
技術者が大スクリーンにレーザーポインターを向け、山岳地帯のあるエリアを囲った。
「ここの線路は廃線になっているので、一般の貨物車などは通りません。それにドローンが、ここからそう遠くない位置に寺院を発見しています。」
「ドローンをそこへ向かわせるには、どれくらいかかる?」
技術者がラップトップ・パソコンのキーボードを打った。
「2、3時間ほどでしょうか…」
「何?ばかな、一度は真上にいたんだろう?」
「申し訳ありません。燃料を補給する必要があったんです。1時間以内にはまた離陸できます。ですが、なにぶんもう暗いので、少し前の衛生画像がありますから、それを使って…」
「ドローンに赤外線カメラはないのか?」
技術者がまたキーボードを打った。
「搭載されていません。どうしましょう…」
「近くに赤外線付きのドローンが一台もないというのか?」
「お待ちください。」
コンピューターの画像が技術者の眼鏡に反射した。
「あります。少し離れていますが、標的までの飛行は可能です。」
「飛ばせ。」
別の技術者が管理室に飛び込んできた。
「南極から極秘連絡です。入り口を発見したようです。」
ドリアンは椅子にもたれかかった。
「確認は?」
「今確かめているところですが、深度や体積は適合するようです。」
「ポータブル型の核は完成したか?」
ドリアンは聞いた。
「はい。ドクター・チェイスから報告がありまして、バックパックに収まるサイズに改造したということです。」
その痩せた男が、ホッチキスでは留まらない厚さの紙の束を掲げて見せた。
「実は、もっと詳細な報告書が送られてきているのですが。」
「シュレッダーにかけておけ。」
男は報告書を腋の下に戻した。
「それからドクター・グレイから電話がありました。現場で会って対応策を話し合いたいとのことです。」
「わかった、向こうで会おうと伝えてくれ。すぐに出発する。」
ドリアンは立ち上がってドアへ向かった。
「まだ報告が残っています。感染率ですが、東南アジア、オーストラリア、アメリカ合衆国で上昇しています。」
「どこか動き始めたところはあるか?」
「いえ、ないと思います。ただの新型インフルエンザだとしか考えていないようですから。」

続く→

第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー58

2020.04.19.08:46

91

チベット自治区 イマルの寺院

ケイトはあくびをしながらページをめくった。
室内は寒く、彼女とデヴィッドは2人で厚い毛布にくるまっていた。
「また移動中に読めばいい。」
デヴィッドが眠そうな声で言った。
「何度も休憩をとる事になるだろうからな。」
「そうね、でも、きりのいいところまで読んでしまうわ。」
ケイトは言った。
「子供の頃は本を読んで、夜更かしした口だろう?」
「ほとんど毎晩だったわ。あなたは?」
「テレビゲームで夜更かしだ。」
「だと思った。」
「レゴの時もあったぞ。」
デヴィッドもあくびをした。
「あと何ページくらいあるんだ?」
ケイトはパラパラと日記をめくった。
「そんなにないわ。ほんの少しよ。あなたが起きてられるなら、私は大丈夫だけど。」
「言っただろう、もう十分寝たって。それに俺は、明日から山歩きをするわけじゃない。」

空気が吹き込んでくる細い音で目を覚ますと、チューブが開いていた。
初めは肺に水が溜まっているような息苦しさがあったが、何度が湿った空気を吸い込むうちに、呼吸が正常になり、そこでようやく周囲に目がいった。
室内は依然として暗いものの、おぼろげな光の筋が、廊下の方から届いていた。
チューブから足を踏み出し、あたりを見回しながら廊下へ向かった。
他のチューブは空っぽだったが、猿人は相変わらずそこにいた。
洪水の間も、何も気が付かず眠っていたに違いない。
彼はいったいどれくらい眠り続けているのだろう、と思った。
廊下にはまだ30センチほど水が溜まっていた。
見落とす量ではないが、歩みを邪魔する量でもない。
水を跳ね上げて裂け目に近づいた。
私を閉じ込めた岩はほとんどなくなっていた…水で流されたのだ。
上から差す琥珀色の光が、まだ残っている岩を柔らかく照らしていた。
その岩を押して外へ出た。
不思議な光の出所は、9メートルほど上方の、階段の上に吊り下げられていた。
ベルか巨大なポーンのような形をしており、上端には窓が並んでいた。
正体を探ろうと目を凝らした。
その物体は、私を見つめ返してくるようだった。
まるで獲物を味わったタンザニアのライオンが鳴らす鼓動のように、ゆっくりと光を点滅させている。
攻撃してくるだろうかと身構え、じっと立っていたが、何も起きなかった。
目が慣れてくると、周囲の景色が次々と視界に入って来た。
地面は水と灰と土砂と、血が混ざり合った悪夢のようなスープで覆われていた。
一番下の層には、岩に押しつぶされたモロッコ人の死体が見えた。
その上に転がっている損傷の激しい死体は、ヨーロッパ人のものだ。
焼かれたような状態のものもいるが、全員に共通しているのは、何か得体の知れない凶器でズタズタにされていると言う事だった。
爆発によるものでも、銃やナイフによるものでもない。
それに殺されたのは、最近ではないようだ。
傷口が古そうに見える。
一体自分はどれくらい、ここにいたのだろう?
死体を調べて回った。
期待していたが、リュトガーの顔は見当たらなかった。
顔をこすった。
集中しなくては、家に帰るのだ。
ヘレナ。
トロッコはなかった。
疲れと空腹で弱っているせいか、一瞬、もう2度と日の光を見られないのではないかと思った。
それでも、片足をもう一方の足の前に出し、坑道から出るための困難な旅を開始した。
目一杯力を込めて足を前後に動かし、襲ってくる痛みを覚悟した。
が、いつまで経ってもそれはやって来なかった。
私は、自分でもどこにあったのかと思うような、活力と情熱に動かされて地上を目指していた。
あっという間に坑道が後ろに去って行き、螺旋の最後のカーブが終わったところで光が見えた。
坑道の入り口は、白い天幕かプラスチックのシートのようなもので覆われていた。
幕を払った途端、ガスマスクと奇妙なプラスチックのスーツを身につけた兵士たちに囲まれた。
彼らが飛びついて来て、私を床に押さえ込んだ。
床から見ていると、1人の背の高い兵士が大股でこちらへ近づいて来た。
それが誰かはすぐにわかった。
コンラッド・ケインだ。
兵士の1人が彼を見上げて、マスクごしのこもった声で言った。
「ここから歩いて来ました。」
「連れてこい。」
ケインの声も、不気味に低くくぐもっていた。
男たちに引かれて倉庫の奥へ行くと、そこには野戦病院を思わせる白いテントが6つ並んでいた。
最初のテントには簡易ベッドが何列も連なっていた。
全て白いシーツで覆われている。
その時、隣のテントから悲鳴が聞こえて来た。
ヘレナだ。
両脇の兵士の手を振りほどこうとしたが、力が出なかった。
空腹のまま歩き続けて来たし、チューブの影響もあるのかもしれない。
それでも私はいっそう手に力を込めると、兵士に抵抗し続けた。
今でははっきりと彼女の声が聞こえていた。
テントを仕切る白いカーテンの向こうにいる。
そちらへ突進したが、兵士がすぐに私を引き戻した。
そして狭いベッドに横たわる死者たちをしっかり見せるように、列に沿って私を歩かせた。
私の中に恐怖が広がって行った。
バートン卿と夫人がいた。リュトガーも。
ケインの奥さんも。
みんな死んでいる。
知らない顔もたくさんあった。
科学者、兵士、看護師、少年のベッドの横を通り過ぎた。
ケインの息子だ。
ディートリッヒだったか?
ヘレナに話しかける医師たちの声が聞こえた。
カーテンの脇を通った時には、その隙間から、彼らがヘレナを取り囲んで何かを注射し、彼女の体を押さえつけるのが見えた。
男たちが暴れる私を取り押さえた。
ケインが私の方を向いた。
「お前にも見てもらうぞ、ピアーズ。その目で彼女が死んでいくところを見届けるんだ。私がリュトガーやマリーの死を見届けたようにな。」
彼らはケインのそばへ私を引きずって行った。
「何があった?」
私は聞いた。
「お前が地獄を解き放ったんだ、ピアーズ。お前が協力していれば、こんな事にはならなかった。下に何があるのか知らないが、そいつがリュトガーや部下の半数を殺した。地上に逃げられた者たちも病気にかかっていた。想像もつかないような疫病だ。この疫病はジブラルタルを壊滅させて、さらにスペインにまで広がっている。」
ケインが白いカーテンを引き、私に全てをさらした。
ヘレナ。
忙しく動く3人の男と、2人の女に取り囲まれ、ベッドの上で身もだえしている。
私が兵士を振り切ると、ケインが手をあげて放っておくように合図した。
彼女に駆け寄り、髪を撫でて、頬にキスし、それから唇にキスをした。
焼けるように熱かった。
私がその熱さにゾッとしたことを見てとったのだろう。
彼女が手を伸ばし、私の頬を優しく撫でた。
「大丈夫よ、パトリック。ただの流感なの。スペイン風邪よ。そのうち治るわ。」
私は医師を見上げた。
彼が素早く目を伏せた。
涙があふれ、その一粒がゆっくりと頬を転がり落ちた。
ヘレナがそれを拭った。
「あなたが無事でとても嬉しいわ。坑内の事故で死んだと聞かされたのよ。モロッコ人の部下たちをさ助けようとしたんですってね。」
彼女の手が私の頬を包んだ。
「勇敢だわ。」
その手が急に引かれた。
口を押さえても吹き出す咳が、彼女の体とベッドを揺すった。
彼女はもう一方の手を膨らんだお腹に回し、ベッドの柵にぶつからないよう庇っていた。
咳は永遠にも思えるほど続いた。
まるで肺が引き裂かれているような音だった。
ヘレナの両肩を握って押さえた。
「ヘレナ…」
「あなたを許すわ。内緒にしていたことを。わかっているの、私のために黙っていたのよね。」
「許さないでくれ、頼む。」
また咳が始まり、医師たちが私を押しのけた。
ヘレナに酸素を与えていたが、役に立つとは思えなかった。
私は見つめた、そして泣いた。
ケインが私を見ていた。
ヘレナはシーツを蹴って闘っていた。
その体が動かなくなった時、私はケインの方を向いた。
私の声はマスクを通した彼の声のように、平坦で虚ろだった。
私はその急ごしらえのイマリの病院で、躊躇うことなく悪魔と取引をした。

ケイトの頬を涙が伝っていた。目を閉じると、そこにはデヴィドがいるチベットのベッドの上ではなかった。
ケイトはサンフランシスコにいた。
4年前の寒い夜の、あのストレッチャーの上だ。
救急車から病院へと運び込まれている。
周囲では医者や看護師が叫んでいて、ケイトが呼び掛けても耳を貸そうともしない。
ケイトは医者の腕を掴んだ。
「赤ちゃんを助けて。もし私と赤ちゃんのどちらかしか救えないなら、どうか…」
医者が離れて行き、ストレッチャーを押している大柄な男に叫んだ。
「第二オペ室へ。急げ!」
彼らはさらに速度を上げ、ケイトの口にマスクを被せた。
ケイトは眠らないように必死で闘った。

目を覚ますと、がらんとした広い病室にいた。
身体中が痛かった。
腕には何本も管が繋がっている。
すぐに腹に手をやったが、触る前からわかっていた。
ガウンを引き上げ、腹部に長く走る醜い傷を見て取った。
両手に顔を埋めて泣いた。
どれくらいそうしていたかわからない。
「ドクター・ワーナー?」
ハッとして顔を上げた。
希望が膨らんだ。
ケイトの前に気後した様子の、看護師が立っていた。
「赤ちゃんは?」
ケイトはかすれた声で聞いた。
看護師が視線を下げ、自分の足を見つめた。
ケイトはベッドに崩れ落ちた。
次から次へと涙が波のように溢れてきた。
「あの、確認させて頂きたくて。緊急連絡先が記載されていないようなので、その…どなたか連絡した方がいい方はいませんか?お父さんの方には?」
一気に燃え上がった怒りが涙を堰き止めた。
7ヶ月の恋愛、食事、ときめき。
成功したインターネット起業家?
どこまで本当か、わかったものではない。
いい加減な避妊。
突然の別れ。
1人で育てようと言う決意。
「いいえ、連絡する相手はいないわ。」

デヴィッドがケイトを抱きしめて、涙を拭いた。
「いつもはこんなに感情的にならないんだけど。」
ケイトは鼻をすすって言った。
「ただ、私…向こうにいたときに…」
堤防が壊れてしまったようだった。
これまで跳ね返してきた感情や思いが、一斉になだれ込んでくる。
言葉が形になって口から漏れようとしていた。
誰にも言ったことのない話を、男を相手に打ち明けようとしている。
数日前なら想像もつかなかったことだ。
彼といると安心できた。
いや、それ以上だった。
彼を信頼しているのだ。
「わかっている。」
彼がケイトの頬に手をやり、また溢れ出した涙を拭った。
「傷のことだろう?いいんだ。」
そう言うと、ケイトの手から日記を取った。
「今夜はもうやめておこう。少し休んだ方がいい。」
ケイトはデヴィッドに腕を引かれて横になり、彼と肩を寄せ合って目を閉じた。

続く→
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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー57

2020.04.19.08:46


90

南極大陸東部 第6掘削現場スノーキャンプ・アルファ

ロバート・ハントは移動式住居の椅子に座り、淹れたての熱いコーヒーで両手を温めた。
前回の現場でひと騒動あっただけに、何の問題もなく2100メートルまで掘り進められたことがありがたかった。
空洞も、水も、堆積物もない。
今回の現場も初めの4つの現場と同じ結果になるだろう…水しか出ない。
コーヒーを口に運び、前回起きた異変は何だったのかと考えた。
ドアの外で甲高い音が鳴り渡った。
これはドリルが滑っているか空回りしている音だ。
住居から走り出て運転者に目配せをし、素早く首を切る仕草をした。
男がスイッチに飛びついてドリルを止めた。助かった、学習したようだ。
ロバートはやぐらに駆け寄った。
掘削作業員がこちらを向いて言った。
「ドリルを引き上げますか?」
「いや。」
深度を確認した。
2227メートルだった。
「下ろしてみよう。空洞の深さを確かめたい。」
男がドリルを下ろして行った。
ロバートは深度計を見守った。
2240…260…280…300…320…。
数字は2323メートルで止まった。
その結果に、ロバートの鼓動が速くなった。
氷の下の、およそ2キロメートルの深さに空洞がある。
恐らく陸地の表面に何かあるのだろう。
だが、いったい何が?
洞穴だろうと空洞だろうと、それは100メートル近い高さがある。
つまり、アメフトの競技場を縦にしたくらいの高さがあるということだ。
いったいどんな物体に、2キロメートルもの厚さの氷を支えられるだけの強度があるというのか。
補助員がロバートに顔を向けて聞いた。
「掘削を再開しますか?」
あれこれ考え続けていたロバートは、操作盤の上で手を振って、呟くように言った。
「いや、ああ、このままにしておいてくれ。連絡を入れてくる。」
住居に戻って無線のスイッチを入れた。
「バウンテイ、こちらスノー・キング。報告がある。」
数秒すると無線から音がし、応答が返ってきた。
「続けてくれ、スノー・キング。」
「深度2227メートルで空洞に行き当たった。繰り返す、深度2227メートル。空洞は深度2323メートルまで続いている。2323メートルだ。指示を求む。」
「そのまま待機しろ、スノー・キング。」
ロバートはポットにもう1杯、コーヒーを淹れる準備をした。
きっと他のメンバーも飲みたいだろう。
「スノー・キング、現在のドリルの状態は?」
「バウンティ、ドリルは最大震度まで降ろしたままだ。」
「了解、スノー・キング。指示を伝える。ドリルを回収して現場を閉鎖し、第7掘削現場に移動しろ。GPSの座標を記録する準備を。」
いつものように座標を書き留め、現地での秘密保持に関する長い注意事項を我慢して聞いた。
そして座標をメモした紙をたたんでポケットに入れ、コーヒーが入ったカップを2つ手にして住居を後にした。
彼らはドリルを引き上げて、素早く現場を片付けた。
3人の男たちは皆テキパキと動き、無言のまま機械的に作業を続けた。
空から見れば、イヌイット版のブリキの兵隊3人が、せっせと仕事に精を出しているように見えただろう。
同じ軌道を行ったり来たりし、コンテナを持ち上げて積み重ね、大きな白い傘を開いて小さな機材を覆い、白い柱を固定して巨大な天幕を発掘現場に張り巡らせる。
作業が終わると、補助員の2人は、スノーモービルにまたがって、ロバートが先導するのを待った。
ロバートは現場を見渡した。
片腕はカメラが入ったプラスチックの収納ボックスに乗せていた。
200万ドルという報酬は大金だ。
男たちがちらりとロバートを振り返った。
2人ともすでにスノーモービルのエンジンをかけていたが、1人がそれを切った。
収納ボックスの雪を軽く払い、留め具の一つを外した。
と、いきなり響いた無線の声にロバートの心臓が跳ね上がった。
「スノー・キング、こちらバウンティ。状況報告を。」
無線のボタンを押し、一瞬ためらってから言った。
「バウンティ、こちらスノー・キング。」
男たちに目をやった。
「今から現場を発つ。」
留め具を戻し、少しの間そこに立っていた。
何もかもおかしかった。
報告しても何の反応もなく、あらゆることが密かに進められている。
だが、自分に何がわかるというのだろう?
金をもらって掘っているだけなのだ。
多分、彼れらは悪いことをしているわけではない。
自分たちのビジネスを世界中に報道されたくないだけだ。
なんの問題もないだろう。
だが、好奇心のせいで首になるのは大問題だ。
自分はそれほど愚かではない。
ロバートは息子にこう告げている場面を想像した。
すまない、大学へ行くのは待ってくれ。今は金がないんだ。ああ、入るはずだったよ。だがどうしても謎を突き止めたかったんだ。
そして、また思った。
もしここで何か違法なことが行われていて、自分もそれに加担しているとしたら…。
息子よ、お前は大学にいけない。なぜなら父親が国際的な犯罪者だからだ。ついでに言うと、間抜けなせいでその自覚さえなかったんだ。
もう1人もスノー・モービルのエンジンを切った。
どちらの補助員も彼をじっと見つめていた。
ロバートは余っている目隠し用の備品のところに行った。
そこから長さ2メートルほどの白い傘を抜き出し、自分のスノー・モービルに縛り付けた。
そしてエンジンをかけ、次の現場に向かって出発した。男たちがすぐ後ろをついて来た。
30分ほど進んだところで、雪上にそびえる大きく張り出した岩が見えた。
洞窟と呼べるほどの奥行きはないが、6から9メートルほどの窪みができており、岩の庇が長い影を落としている。
ロバートは進路を調整して岩のそばを通り、ギリギリになってから方向を変えて暗い影の中へ入った。
ぴったり後ろを走っていたにもかかわらず、2人の男も彼に合わせて素早く向きを変え、彼の傍にスノーモービルを駐めた。
ロバートは座ったままで、男たちも降りようとはしなかった。
「現場に忘れ物をした。戻ってくるまでそれほど時間はかからないと思う。ここで待機していてくれ。この…窪みから出るなよ。」
どちらの男も黙り込んでいた。
ロバートは自分が落ち着きを失っているのを感じた。
何と嘘が下手なのだろう。
どうにか自分の指示に説得力を持たせようと、さらに言った。
「空から見られる機会は、なるべく減らすように言われているからな。」
白い傘を開いて自分の傍に立て、しっかりと柄を握った。
まるで脇に槍を握りしめた中世の騎士が、馬に突撃の準備をさせていると言った風情だった。
ロバートはスノーモービルをバックさせ、現場に向かって元来た道を戻って行った。

続く→
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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー56

2020.04.17.20:15

89

1918年1月18日

書斎に駆け込んできた執事を目にした時、まず頭に浮かんだのはヘレナのことだった。
破水したのか、倒れたのか、それとも…。
「ミスター・ピアーズ、会社からお電話が入っています。とても重要な、緊急の用件だそうです。港の倉庫内で問題が起きたとか。」
私は執事のオフィスに降りて行って、受話器を取った。
声を発する間もなく、マロリー・クレイグが言った。
「パトリック、事故が起きた。リュトガーは黙っていろと言うんだが、君に知らせるべきだと思ってな。彼が無理をしたんだ。急いで進めすぎたんだよ。モロッコ人作業員が何人か閉じ込められている。どうやら…」
話が終わるのを待たずに受話器を置き、家を飛び出した。
自分で運転して倉庫へ駆けつけ、元助手と共にトロッコに乗り込んだ。
そして、初めて坑道に入った日のリュトがーのように、トロッコを飛ばした。
あの愚か者がついにしでかしたのだ。
無茶をして落盤事故を起こしてしまった。
目にするのが恐ろしかったが、私はひたすら助手を急かせて速度を上げた。
トンネルが終わり、この4ヶ月働いてきた、巨大な石の広間に到着した。
電気の照明が消えていたが、坑内は真っ暗ではなかった。
いくつもの光の筋が走っている。
作業員たちのヘルメットのライトだ。
腕を掴まれて振り向くと、作業長だった。
「リュトガーからデンパです、ミスター・ピアーズ。」
「電話というんだよ。」
そう訂正し、私は薄暗い空間を進んで行った。
そして足を止めた。
額に水を感じた。
汗か?違う、それだけではない。
天井から水滴が降ってきたのだ。
岩が濡れている。
受話器を掴んだ。
「リュトガー、事故があったと聞いたが、お前はどこにいるんだ?」
「安全な場所だ。」
「ふざけている暇はない。事故現場はどこだ?」
「ああ、それならそこで間違いない。」
リュトガーは余裕たっぷりの戯けた口調で言った。
どこか満足そうだ。
周囲を見渡した。
作業員たちが困惑した様子でうろついている。
なぜ照明が消えているのだろう?
受話器を置いて送電線の方へ近づいた。
新しいコードがそこから1本伸びていた。
ヘルメットのライトで照らし、行先を目で追った。
壁を伝って上へ伸び、天井を通り、階段に向かい…。
「ここから出ろ!」
私は叫んだ。
地面の起伏に足を取られながら奥へ向かい、必死で作業員たちを追い立てたが、彼らは光と闇の波に揉まれてぶつかったりつまずいたりするばかりだった。
頭上で爆発音が響き、岩が降ってきた。
瞬く間に土煙が空間を埋め尽くした。
西部戦線のトンネルの時と全く同じだ。
彼らを助けられない。
姿さえ見えない。
よろめきながら後退り、裂け目に滑り込んだ。研究室に続く廊下だ。煙に追われて逃げた直後、岩が裂け目を塞ぐ音がした。
ドアを閉じたように悲鳴が遠ざかり、私は暗闇に閉じ込められていた。
目に映るのは、チューブのぼんやりとした白い光と、霧だけだった。

どれくらい経っただろう。
空腹を感じていた。
ひどく腹が空いている。ヘルメットのライトは随分前に点かなくなり、私は静まりかえった暗闇の中に座っていた。
壁にもたれて考えた。
ヘレナは気も狂わんばかりに心配しているだろう。
ついに秘密がばれてしまうのだろうか?
何もかも、ここから出られることを前提にした話だ。
岩の向こうで足音がした。
人の声も、どちらもくぐもっているが、音が通れるくらいの隙間はあるのだ。
「おーい!」
慎重に言葉を選んだ。
「デンパのところへ行って、バートン卿にかけてくれ。パトリック・ピアーズが閉じ込められていると言うんだ。」
笑い声がした、リュトガーだ。
「お前はしぶとい奴だな、ピアーズ。それは認めてやろう。それに技師としても最高だった。だが、人間が相手となると、この壁みたいに頭が硬くなっちまうんだ。」
「俺を殺したら、バートン卿が黙っていないぞ。」
「バートン?誰がこれを命令したと思っているんだ?俺の一存で、おまえをやれると思うか?もしそうならとっくに片付けている。俺じゃない。バートンとパパはな、ヘレナと俺を結婚させるつもりだったんだ。俺たちが生まれる前から、決まっていたことなのさ。最も彼女は乗り気じゃなかったがな。戦争が始まった途端に、ジブラルタル行きの列車に乗ったのも、多分そのせいだろう。だが、運命には逆らえない。この掘削作業のために、俺もここへ移住することになって、全て元通りになろうとしていたんだ。メタンガスで俺の部下が死んで、お前が来ることになるまではな。バートンはお前と取引したが、パパには一時的な話だと説明していた。あの妊娠はさすがに許せなかったが、まあ、気にしなくていい。俺がなんとかする。生まれたての赤ん坊が原因不明の病気で死ぬなんて、よくある話だからな。心配するな。彼女は俺が慰めてやるよ。俺たちは長い付き合いなんだ。」
「俺はここを抜け出して見せる、リュトガー。その時はお前を殺してやるからな。わかったか!」
「声が大きいぞ、パティ。ここには人が大勢いるんだ。」
彼が入り口をふさぐ岩から遠ざかって行った。
ドイツ語で怒鳴る彼の声と、一斉に散らばるたくさんの足音が聞こえた。
正確な時間は分からないが、それから数時間ほどは、謎の研究室を調べて回った。
使えそうなものは何もなかった。
ドアも全て閉ざされている。
ここが私の墓場になるのだろうか。
どこかに抜け出せる道があるはずだ。
くまなく探し回った末、私は床に座りこんで壁を見つめた。
まるでガラスのようにキラキラと光っていた。
チューブのライトを映しているようだが、くっきりとした反射ではない。
もっと鈍い、磨いた鋼鉄のような照り返し方だ。
頭上からは時折ドリルの音や岩を砕く、ツルハシの音が聞こえていた。
最終段階に入っているのだろう。
階段の最上部へ近づいたに違いない。
と、不意に音がやみ、叫び声がした。
「水!水だ!」
水だ!
ついに打ち抜いてしまったのだ。轟音が重く響き渡った。
見なくても岩が崩れ落ちたことは明らかだった。
入り口の穴に駆けつけて、様子を伺った。
飛び交う悲鳴、流れ込む水の音、他にも何か聞こえた。
ドラムを叩くような音がする。
いや、規則的な脈動と言った方がいいだろうか。
1秒毎に大きくなっていく。
また悲鳴が上がり、逃げ惑う男たちの足音がした。
トロッコがエンジン音を響かせて走り去った。
耳をそばだてたが、もう何も聞こえなかった。
音から意識を離した途端、足元に60センチほど水が溜まっていることに気づいた。
重なった岩の隙間から、急速に水が流れ込んできている。
飛沫を飛ばしながら、廊下を走った。
研究室を閉ざすドアがどこかにあるはずだ。
あたりの壁を叩いて回ったが、動きそうなものは何もなかった。
水は今や研究室の中にも溢れていた。
あと数分もすれば、飲み込まれてしまうだろう。
チューブ…。
4本のうち1本が開いている。
他にどんな手がある?
水をかき分けて進み、中に転がり込んだ。
霧が私を包み、ドアが閉ざされた。

続く→


アメリカが武漢の研究所に資金援助していたことが発覚

2020.04.14.23:34

アメリカが武漢の研究所に資金援助していたことが発覚

https://parstoday.com/ja/news/world-i60712

英国の新聞は、新型コロナウイルスの発生源とされる中国・武漢の研究所に、米国が370万ドルの寄付をしていたことを暴露しました。

英紙デイリーメールは12日日曜の記事で、新型コロナウイルスの発生源とされる中国武漢のウイルス研究所が、新型コロナウイルス発生の主原因とされるコウモリを利用した研究を米政府の予算で行っていたと報じました。

この研究所は、米政府から資金提供を受けた370万ドル規模のプロジェクトの中で、5000㎞近く離れた中国・雲南省で捕獲されたコウモリを使ってコロナウイルスに関する研究を行っていました。

新型コロナウイルスの発生源は中国武漢の海鮮市場で、コウモリから人間に感染したとする論が一般的です。

しかし、この武漢のウイルス研究所が米政府の資金で実験を行っていたということは、武漢の市場ではなくこの研究所自体が新型コロナウイルス蔓延の主原因ではなかったかとの疑惑が深まっています。


^^^^^^^^^^^

まあ、結局、中国も米国も、このウイルスについては怪しいということらしい。

第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー55

2020.04.14.07:48


すっかり記憶の中に沈み込んでいた私は、人が群がってきたことに気がつかなかった。
列を作り、自己紹介をしたりヘレナのお腹に触れたりしながら通り過ぎて行く。
私たちは式典か何かに出席した国王夫妻のように、そこに座っていた。
おそらく発掘されたばかりの、あの部屋を調べにきたのだろう。
大勢の科学者がいた。
各国のイマリの支社長たちにも会った。
イマリは巨大な組織だった。
コンラッド・ケインが、近づいてきた。
名に見えない機械に操られているかのように、手足を硬直させて背筋をピンと伸ばしている。
彼が隣に立つ女性を紹介した。彼の奥さんだった。
暖かな微笑みと穏やかな声を持つ人で、私は不意を突かれてしまった。
自分のつっけんどんな態度が少しばかり、恥ずかしくなった。
彼女の後ろから1人の少年が駆け出してきて、ヘレナに飛び乗り腹を押し潰した。
私はとっさに彼の腕を掴み、乱暴に床へ引き落とした。
私の怒りの形相に、少年が今にも泣き出しそうな顔をした。
コンラッドがじっと私を睨んでいたが、母親の方は少年を抱いてこう言い聞かせた。
「気をつけなさい、ディーター。ヘレナのお腹には赤ちゃんがいるのよ。」
ヘレナが椅子の上で姿勢を直し、少年に手を差し出した。
「大丈夫よ。手を出してご覧なさい、ディーター。」
そう言うと、彼の手を取って引き寄せ、自分のお腹を触らせた。
「わかる?」
少年がヘレナを見上げて、頷いた。
ヘレナがにっこり笑った。
「あなたがママのお腹にいたときのことを覚えているわ。あなたが生まれた日のこともね。」
バートン卿が、私とコンラッドの間に進み出た。
「時間だ。」
彼はヘレナの膨らんだお腹を撫でている子供と母親に、顔を向けた。
「ご婦人方、失礼させていただくよ。」
バートンに先導され、私たちは廊下を抜けて広い会議室に行った。
他の者たちは黙示録の使徒さながらに、顔を揃えて待っていた。
リュトガー、マロリー、クレイグ、科学者グループや調査チームの幹部たち。
ごく簡単な自己紹介があった。
彼らはそれほど私を、スター扱いしていないようだった。
ここでも一通り祝いの挨拶が交わされ、まるでペストでも駆逐したかのような大袈裟な喜びが口にされたあと、彼らはさっそく本題に入った。
「階段の上まで掘り出すのは、いつになる?」
コンラッドが聞いた。
本当に言いたいことは別にあったが、好奇心を抑えることが出来なかった。
「あの部屋にある装置は何なんですか?」
科学者の1人が答えた。
「まだ調査中ですが、休眠装置のようなものでしょう。」
同じことを考えていたが、科学者が言うとただの妄想には聞こえなかった。
「ではあそこは、研究室か何かでしょうか?」
科学者が頷いた。
「ええ、あの建物は研究施設だろうと考えています。おそらく巨大な研究所だろうと。」
「建物ではないとしたら?」
科学者は戸惑った顔をした。
「他にどんな可能性が?」
「船かもしれません。」
私は言った。
バートンが笑いを爆発させて、愉快そうに言った。
「パトリック、なんて馬鹿なことを。君は発掘に専念して、科学は彼らに任せておけ。」
彼は訳知り顔で、科学者たちに頷いた。
「彼らはな、君よりずっとこうしたことに詳しいんだ。それより、リュトガーから聞いたぞ。階段を上まで掘り出すには、水やガスが問題になるそうだな。どういう対策を考えているんだ?」
私は食い下がった。
「壁ですよ。あの構造物の内側の。船の隔壁によく似ているんです。」
科学部門の責任者が、ためらいがちに口を開いた。
「ええ、確かに似ています。ですが、1メートル半もの厚さがありますからね。船ならそんなに厚い壁は必要ありません。第一浮かばないでしょう。サイズも大きすぎますし。我々はやはり都市だと考えます。船に階段があるのもおかしいですしね。」
バートンが手をあげた。
「中に入れば全ての謎も解けるだろう。見通しを聞かせてくれるか、ピアーズ?」
「無理ですね。」
「なぜだ?」
ほんの束の間、私はウエストバージニアのあの夜に戻っていた。
それから、会議室に並ぶイマリ評議会や科学者を見回した。
「私の仕事は終わったからです。他の人間を探してください。」
私は言った。
「おい、この場をよく見てみろ。ここは社交クラブじゃないんだぞ。いい加減な気持ちで参加して、会費が負担になったから辞めるとうわけにはいかないんだ。最後まで仕事をして約束を果たせ。」
バートン卿が言った。
「私は中に入れるようにすると言ったんです。そこまではやりました。これは私の戦いじゃない。それに、私には家庭がありますから。」
バートンが何か叫ぼうとして立ち上がったが、ケインが彼の腕を掴み、初めて口を開いた。
「戦いか。興味深い表現だな。教えてくれ、ミスター・ピアーズ。最後のチューブに入っていたものは何だと思う?」
「わからないし、気にもならないですね。」
「気にした方がいい。」
ケインが言った。
「あれは人間じゃない。それに、これまで我々が発見したどんな骨とも一致しない。」
彼は私の反応を伺った。
「お前のために点と点をつないでやろう。お前には出来ないか、する気がないようだからな。誰かがあの構造物を作った。この地球上で、最も進んだ技術を使って。しかも、何千年か、ひょっとすると何十万年も前にだ。あの凍った猿人は、遥か遠い時代からあそこにいて、待ってるんだ。」
「何をですか?」
「わからない。だが、これだけは言える。あいつや、あの構造物を造った仲間たちが目覚めれば、人類はこの地球上から消えるだろう。お前は自分の戦いではないと言ったが、それは大きな間違いだ。この戦いからは逃げ出せないし、棄権することも、無視することも出来ない。なぜなら、この敵は、世界の果てまで追いかけてきて、我々を見殺しにするからだ。」
「初めから彼らを敵だと決めつけているようですが、それはあなたが敵意に満ちているからでしょう。自分が殺戮や戦争や権力のことばかり考えているから、彼らも同じだと思うんですよ。」
「はっきりしていることは一つ、あの生き物も人間の一種だと言うことだ。だとすれば、私の考えはそれほど的外れではないと思うがな。それに合理的だ。友人になろうとするより、殺してしまった方が、我々は確実に生き残れる。」
彼の意見について考えてみたが、恥ずべきことに納得してしまう気持ちがあった。
ケインは私の心の揺れを、感じ取ったようだ。
「お前も知っているだろう、ピアーズ。連中は我々より賢い。圧倒的な差がある。もし皆殺しにされなくても、生き残った人間は、せいぜい連中のペットにしかなれない。連中は我々を従順で懐っこい性質に改良するために、焚き火のそばで餌を与え、攻撃的な個体を取り除くだろう。かつて我々が野生の狼を、犬に変えたようにな。徹底的に手なずけて、反撃を考えることも、狩りをすることも、自分で食物を得ることもできないようにしてしまうんだ。実はすでに飼い慣らされ始めていて、我々が気づいていないだけかもしれないぞ。あるいは、我々を愛玩動物とは思わず、奴隷にするかも知れない。お前にはお馴染みの発想だろう。
野蛮だが進歩した技術を持った人間の集団が、自分たちより遅れた集団を支配する。最も、今回はその関係が永遠に続くだろう。我々は2度と進歩も進化もできないからだ。どうだ、恐ろしい話じゃないか。だが、その運命を避ける事もできるんだ。あそこに入り込んで、眠っている彼らを殺すなど、残酷に思えるかも知れないが、殺さなかった時のことを考えてみろ。のちに真相が明らかになれば、人々は我々を英雄として讃えるだろう。我々は人類を解放し、自由を得るために…」
「無理です。ここで何をするにしても、私を抜きにしてやってください。」
どうしてもヘレナの顔が頭から離れなかった。
我が子を抱き、湖のそばで年老いて、夏には孫たちに釣りを教える。そう言う未来を夢見ずにはいられなかった。
私がいても、イマリの計画にとって、役立つとは思えない。きっと他の技師を見つけるだろう。何ヶ月か作業が止まってしまうかも知れないが、あそこにあるものは逃げたりしない。
私は腰を上げ、長いことケインとバートン卿を見つめた。
「皆さん、私は失礼させていただきます、身重の妻が待っていますので、家に連れて帰ってやらないと。」
そして、バートンに言った。
「初めての子供なんです。この計画が成功することを祈っています。ご存知のように、私は元軍人です。軍人は秘密を守ります。戦うことと同じぐらい大事に考えているのです。ですが、戦いだけは、もう終わりにさせてください。」

デヴィッドが体を起こした。
「連中の狙いが見えたぞ。」
「誰のこと?」
「イマリだ。トバ計画だよ。どう言うことかようやく分かったんだ。連中は軍隊を作ろうとしているのさ。間違いない。奴らは、人類が自分たちより進化した敵に直面していると考えている。トバ計画は、人口を激減させて、ボトルネック効果を生じさせ、第二の大飛躍を起こすことが狙いなのだ。超兵士になれる新種の人間を作り出したいんだよ。ジブラルタルにそんなものを建てた奴らとも戦えるような、進化した人間をな。」
「そうかも知れないわね。実は、他にも気になることがあるの。中国のあの施設に、何かの装置があったのよ。あれも何か関係があると思うんだけど。」
ケイトは中国で経験したこと、ベルの形をした物体が被験者を殺し、その後、装置が溶けて爆発が起きた…をデヴィッドに話して聞かせた。
話終えると、デヴィッドがうなずいた。
「何の装置か、見当はつく気がするな。」
「本当?」
「ああ、多分な。先を読んでくれ。」

続く→

第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー54

2020.04.14.07:47

88

1917年12月24日

そのドレスは、ヘレナにとてもよく似合っていた。
仕立て屋は1週間の作成期間と高額な代金を要求したが、それだけ待ったかいはあったし、1シリングだって取られすぎたとは思わなかった。
彼女は輝いていた。
私たちは2人とも、彼女が口にした無理はしないという約束を無視して踊った。
とてもダメだとは言えなかった。
踊らずに立っている時間の方が長かったとは言え、足はさほど痛くなかったし、かつてこれほど自分たちにダンスが似合うと思えたこともなかったのだ。
音楽がスローになると、彼女は私の肩に頭を乗せ、私はチューブに入った猿人のことを忘れた。
世界が正常に戻ったと感じられたのは、あの西部戦線のトンネルで吹き飛ばされてから初めてのことだった。
そして、その全てがチューブの中の霧のように、消え去る時が来た。
音楽が止み、バートン卿がグラスを傾けて話し始めた。
彼は私を褒めそやした。
イマリの新しい会場輸送責任者、娘の夫、戦争の英雄。
会場のあちこちで、頭が縦に振られた。
死から蘇った現代のラザロ、というちょっとしたジョークが出た時は笑いも起きた。
私は微笑んだ。
ヘレナがぴったりと体を寄せてきた。
バートンがようやく話を終えると、盛り上がった列席者たちが、シャンパンを飲み干して私に頷いた。
私は馬鹿馬鹿しくも軽くお辞儀をしてみせ、ヘレナをエスコートしてテーブルに戻った。
どういうわけか、私に頭には最後に父と会った時のことばかりが浮かんでいた。
私が戦地に旅立つ前日のことだ。
その晩の父は、船乗りのように酔っ払って我を失っていた。
自制が効かなくなった父を見たのは、それが最初で最後だった。
父は自分の幼少期の話をし、私はそれで父を理解することが出来た。
いや、出来たような気がした。
本当に誰かを理解することなど、きっと不可能なのだろう。
私たち一家が住んでいたのは、ウエストバージニア州のチャールストンの下町にある質素な家で、同じ並びには父の部下たちも住んでいた。
父と同じような地位にある者…会社の社長や商人や、銀行家といった人々
…は町の反対側に家を構えていたが、父は違う生き方を好んでいた。
父はリヴィングを歩き回り、唾を飛ばしながら私に話し続けた。
私はまだ新しい黄褐色の英国陸軍の制服を身につけて座っていた。
襟元には真鍮の1本線が入った少尉の階級章を下げていた。
「昔戦地に行った愚かな男がいたが、今のお前は彼にそっくりだ。あの時彼は、有頂天になって小屋に戻ってきたんだ。まるで王様から便りが届いたみたいに、手紙を振り回していた。私たちにも読んで聞かせてくれたよ。もっとも当時の私には、なんのことかよくわからなかったが。私たち一家はアメリカに引っ越すことになった。ヴァージニアと呼ばれていた土地へ。アメリカではその2年前から州同士が戦争を始めていた。はっきりと覚えていないが、その頃には、もう戦いは泥沼化の一途を辿っていたはずだ。そしてどちらの陣営も、人を必要としていた。わざわざミンチにするために、新たな兵隊を集めていたのさ。だが当時は、金さえあれば戦地へ行くのを避けられた。代わりの人間を送りさえすればよかったんだ。ある南部の金持ちの農園主は、お前のお爺さんを身代わりに雇った。身代わりだよ。金にものを言わせて、自分の代わりに戦場で死んでくれる人間を雇ったんだ。もしまた徴兵制が敷かれてこんな発想が出てきたら、私は上院議員として、断固代理人制度を阻止して見せる。」
「徴兵する必要はありませんよ。大勢の勇敢な男たちが進んで入隊していますから。」
父は声を上げて笑い、また酒を注いだ。
「大勢の勇敢な男たちか。山ほど愚か者がいるというわけだな。栄光を求め、名声や冒険を期待して戦場へ行くんだろう。戦争の代償を知らないのさ。どんな犠牲を払わされるかを分かっていないんだ。」
父は頭を振り、煽るようにして酒を飲んだ。
「いずれ噂が広まって、結局は徴兵することになる。南北戦争の時と全く同じだ。あの戦争でも、最初は徴兵などしなかった。数年経って人々が現実を味わった頃、徴兵制度が始まり、金持ちが私の父のような貧しい者に手紙を書くようになったんだ。もっとも、カナダの開拓地では、郵便物が届くまで時間がかかる。山奥で木こりをしているような場合にはなおさらだ。私たちがヴァージニアに着いた頃には、その農園主はもう他の身代わりを雇っていた。お前のお祖父さんから連絡が来ないので、怖くなったそうだ。自分が出征することになるのではないかと思ってな。しかし、私たちはもうバージニアに来てしまったし、父は戦って大金を手に入れられるという筋書に夢中になっていた。身代わりになれば最大で1千ドルくらいはもらえたんだ。確かにひと財産と呼べるような金額さ。それを受け取り損なった父は、同じ問題に直面している他の農園主を見つけ出した。そしてあの惨めな灰色の軍服を着て、死ぬことになったんだ。敗戦後の南部の社会はめちゃくちゃだった。裁判所だって階段しか残っていないような状態だ。そのすきに、お前のお祖父さんが報酬として受け取れるはずだった広大な土地も、北部からの移住者に二束三文で奪われてしまった。」
父はグラスを空にし、ようやく腰を下ろした。
「だがな、戦後の苦労はその程度じゃ終わらなかった。北部の占領軍が我が家を食い潰している間に、私のたった1人の兄弟は腸チフスで死んでしまった。我が家といっても、農園に立つあばら屋だ。新しい農園主はそんな小屋からも、私たちを追い出そうとした。母は取引をした。置いてくれるなら、畑仕事をすると申し出たんだ。そしてその通り、死ぬまで畑で働き続けた。私が農園を出てウエストバージニアに向かったのは、12歳の時だ。その頃鉱山の仕事にありつくのは大変だったが、少年は歓迎された。体が小さければ小さいほどよかったのさ。狭い隙間に入り込めるからな。そう、戦争の代償とはこういうものだ。よく分かっただろう。お前にはまだ家庭がない。だが自分の行手に何が待っているか、しっかり覚えておけ。なぜ贅沢を許さず過酷な要求ばかりするのか、疑問に思ったこともあるだろう。それはこういうことだ。人生は誰にとっても厳しいが、愚かな者や弱い者にとっては地獄になる。お前はそのどちらでもない。私がそうならないように育ててきたからだ。それなのにお前は、こんな形で恩を返そうとしている。」
「この戦争は違います。」
「戦争はどれも同じだ。死者の名前が変わるというだけさ。いつだって問題は一つしかない。どっちのグループの金持ちが戦利品を山分けできるかだ。大戦争とはよく言ったもんさ。うまい宣伝文句だ。これだって、言ってみればヨーロッパの南北戦争で、争点は一つしかない。終戦後にどっちの王様や女王様がヨーロッパ大陸を山分けできるか、それだけではないか。アメリカには関係ないし、だから私は反対票を投じた。ヨーロッパはこっちの内戦には関与しなかった。賢い判断だ。我々も見習うべきだと思わないか?実際のところ、この戦いは王族内の内輪揉めでしかないんだ。親戚同士の争いさ。」
「私たちだって、彼らの親戚でしょう。私たちの母国が窮地に陥っているんですよ。彼らだって、こちらが壊滅の危機にあれば、助けに来てくれるはずです。」
「彼らに借りはない。私たちの祖国はアメリカだ。この土地を手にするために、私たちは血と汗を流した…唯一本物の代価を払ったんだ。」
「鉱山技師が是が非でも必要なんです。坑道戦がうまくいけば、この戦いを早く終結させることが出来ます。それでも家にいろというんですか?人の命を救えるというのに。」
「命など、救えない。」
父はうんざりした顔をした。
「私の話をまるで理解していないな?だったら出ていけばいい。もし戦争から生きて戻ることが出来ても、ここには帰ってくるな。だが、これまで育ててやった礼に、一つだけ頼みを聞いてくれ。もし自分が他人の戦争を戦っていることに気づいたら、その時はすぐに立ち去るんだ。そして、その軍服を脱ぐまで家庭は持つな。父のように強欲で残酷にはならないでもらいたい。ヴァージニアの農園に向かう途中、私たちは北部の惨状を目の当たりにした。父は自分が何をするかを知っていながら、それでも従軍したんだ。戦場へ行けばお前にもわかるだろう。その時は、どうか今夜よりも優れた選択をしてくれ。」
父は部屋を出て行き、2度と私の前に姿を見せなかった。

続く→

第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー53

2020.04.14.07:46

87

ケイトは日記の文字を追おうと目を細めた。
太陽が山の稜線に沈みかけ、ケイトの胸に冷たいものが広がり始めていた。
横目でデヴィッドの様子を伺った。
その顔は無表情に近く、何の感情も読み取れなかった。
覚悟を決めている顔なのかも知れない。
ケイトの思いが届いたかのように、ミロがガスのランタンを手にして、広い板張りの部屋に入ってきた。
ケイトはその匂いが好きだった。
どこか安らぎを感じさせてくれる。
ミロがベッドのそばのテーブルにランタンを置くと、日記に光が届いた。
「今晩は、ドクター・ケイト。」
ミロは目覚めているデヴィッドに気づき、パッと顔を明るくした。
「またお会いできましたね、ミスター・リー…」
「今はデヴィッド・ヴェイルだ。久しぶりだな、ミロ。だいぶ背が伸びたじゃないか。」
「それだけではありませんよ、ミスター・デヴィッド。古くから伝わる意思伝達の技も身につけたのです。そう…英語ですよ。」
デヴィッドは声を上げて笑った。
「よく勉強したみたいだな。君に渡らずに放り捨てられるかも知れないと思ったんだが。あの、ロゼッタ・ストーンを送った時は。」
「ああ、ついに謎の後援者が正体をあかしましたね!」
ミロがお辞儀をした。
「あなたの言語をプレゼントしてくれて、ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、私からもちょっとしたお返しがあります。」
彼は思わせぶりに眉をあげた。
「夕飯ですよ。」
「いいわね。」
そう言って、ケイトも笑った。
デヴィッドは窓の外に目を向けていた。
最後の日の光が、時計の端に消える振り子のように山の背後へ滑り落ちていた。
「もう休んだほうがいい、ケイト。長時間歩くことになるからな。」
「一段落したらね。朗読していると、リラックスできるみたいだから。」
ケイトはまた日記を開いた。

1917年12月23日

私は落ち着き始めた土煙の向こうに、目を凝らした。
そして、眉を潜めた。
自分の目が信じられなかった。
また何段か階段が露出していたが、その右手にも何かが見えていたのだ…金属の壁に、避けたような穴が空いている。
「入れるぞ!」
そう叫ぶと、リュトガーが暗闇と土埃の中へ突進しようとした。
彼を掴んだが、手を振りほどかれてしまった。
足はいくらか良くなり、鎮痛剤も一日一錠か、多くても二錠飲めばすむ程度になっているが、彼に追いつくことは到底無理だった。
「追いかけたほうがいいですか?」
モロッコ人の作業長が聞いた。
「いや、その必要はない。」
リュトガーを救うために、彼らを犠牲にするつもりはなかった。
「鳥を乗ってきてくれ。」
私はカナリヤの籠を受け取り、ヘルメットのライトをつけて、真っ暗な穴に向かった。
不規則に尖った縁は、その裂け目が爆発か何かの衝撃でできたものであることを物語っていた。
だがこれは、私たちの手柄ではない。
私たちは単に、発見しただけだ。
何しろその金属の壁は、およそ1メートル半もの厚みがあったのだ。
イマリが60年近くも潜って掘って探し続けたその建造物に足を踏み入れると、私にもようやく畏敬の念が湧いてきた。
最初に入った場所は幅3メートル、長さ9メートルほどの廊下だった。
廊下は円形の部屋へと続いており、そこに不思議としか言いようのない光景が広がっていた。
まず目を奪われたのは、壁のくぼみに収まっている4本の大きなチューブだった。
床から天井の高さまであるそれは、巨大な細長いカプセルか、縦に伸ばした広口ガラス瓶のように見えた。
中は空っぽで、底の方に白い光と霧が漂っている。
奥にも2本あった。
壊れているのか、1本はガラスが割れて霧も溜まっていなかった。
だが、隣のチューブには…
何か入っているようだ。
リュトガーも私と同じチューブを見つめていた。
彼の前にあるそのチューブは、私たちの存在を感知したようだった。
近づいていくと、あたかも秘密のカーテンが開かれるように、霧が晴れていったのだ。
人間だった。
いや…
猿だろうか?
その中間かも知れない。
リュトガーが私を振り返った。
彼が傲慢でも不遜でもない表情を浮かべるなど、初めてのことだ。
彼は困惑していた。
あるいは怯えていたのかも知れない。
私と同じように。
彼の肩に手を置き、改めて部屋を見渡した。
「どこにも手を触れるなよ、リュトガー。」

続く→

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kitako

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