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「アナスタシア・響き渡るシベリア杉」20

2019.04.19.18:47

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満天の星を映す湖で

ある晩、私はアナスタシアがどのようにして星と交信するのかを見る機会があった。
その前夜、彼女は言った。
「ウラジミール、明日の夜は私にとってとても大切な夜だから、あなたの隣で休むことはできない。でも心配しないで。子供狼を呼ぶから。あなたが眠っている間、彼がねぐらの入り口でガードする。」
そう言われても、私はどうしてもあのねぐらに一人で、寝る気にはなれなかった。
入り口を閉じることができないので、どんな猛獣が入って来て、寝ている人間を襲うかわからないからだ。
動物たちはアナスタシアを守ったが、もし私が一人で寝ていたら、私を襲うかもしれない。
もしかしたら何もしないかもしれないが、警戒心と恐怖心で眠れないだろう。
そう思いながら、私はアナスタシアに聞いて見た。
「君は今晩、どこにいるんだい?」
「湖の水の上にいるわ、ウラジミール。」
「泳いでいるっていうこと?君は今夜、特別に泳ぎに行かないといけないの?」
「そう、ウラジミール。こういう夜が1年に1回だけあって、絶対に欠かせないの。」
私はそれ以上、なぜ今夜、特別に彼女が湖にいなければならないのか、尋ねようとはしなかった。それよりもどうやって、自分の身の安全を守るかに関心があったのだ。
そこで私は提案した。
「私も一緒に湖に行っていいかな?君が泳いでいる間、湖のほとりに座っているよ。」
「いいわ、ウラジミール。暖かい服装にしてね。眠くなったらその上で休めるよう、干し草を持って行きましょう。」
私たちはそのように準備して、湖に行った。
日が落ちて周りが暗くなって来たとき、私は干し草の上に横になり、そこで起こったことを目撃したのだ。
その夜は暖かくて静かだった。
木の梢もそよがず、草むらに虫の鳴く声もなく、タイガに住む夜行性の動物たちのざわめきも聞こえない。
澄み切った夜空に、たくさんの星々が、普段より一層輝きを増してきらめいていた。
アナスタシアは湖のほとりに立って、滑らかな水面を黙って見つめていた。
鏡のような湖面に大小様々な星が映し出されている。
彼女はチュニックを脱ぎ、裸のまま湖に入って行った。
少しの間、水が膝のところまで来るところに立っていたが、やがてそこに座り、両手のひらでゆっくりと水面を撫でた。
そして突然、きらめく星々を映す水面をなるべき動かさぬよう、注意深く身を沈めた。
それから顔を出し、ゆっくりと円を描くように泳ぎ始めた。
次第にその円の直径を狭めて行って、湖のちょうど真ん中に来たところで、仰向けになって浮かび、両手をまっすぐ横に伸ばして天を仰いだ。
満天の星が湖面に映っていたので、彼女は上下左右全てが星で埋め尽くされた天空の真ん中に横たわっているようで、彼女自身が星の集まりの一部のように見えた。
湖水は微かな7色の柔らかな光を放ちながら、静かに脈打つように揺れている。
星がきらめく湖と、その周り一帯の静謐な光景に見入っているうちに、私はいつの間にか深い眠りに落ちていた。
夜明けごろ目を覚ました。
湖にもう星は映っていない。
アナスタシアは私の横に、いつものメリヤス地のようなチュニック姿で、膝を両腕で抱えるようにして、その上に頭をおいて休んでいた。
身動き一つしなかった。
まだ起きるには早すぎる時間だったが、私はすっかり目が覚めていて、もう眠れそうもなかった。
彼女がなぜ夜中にあのような奇妙なことをしたのか、それを知りたかった。

私は彼女の方に近づき、なんとなく彼女の手を撫でながら言った。
「アナスタシア、私がこれから言うことに気分害さないで欲しいのだが。」
「話して、ウラジミール。気分を害したりしないから。」
「昨夜見た湖の光景は本当に美しかった。あんな美しいものはこれまで一度も見たことはないし、あんな素晴らしい感動を味わったのも初めてだ。まるで湖が、シベリアのタイガではなく、宇宙の真ん中にあるように見えた。…ただ一つ気になったのは、アナスタシア、君はあんなに長く水の中にいてはいけないんじゃないかってことだよ。君はいま、体に十分気をつけないといけない。昨夜のようなことを君がすべきだとは私は思わない。泳ぐには水はもう冷たいし、風邪を引いたり、何か悪いことが起こらないとも限らない。何より私は昨日の手順と言うか儀式というか、あれに何か意味があるようには思えなかった。」
「私が昨日したことには、意味があるのよ、ウラジミール。」
「どんな?」
「私が生まれた時、母は私をこの湖の水で洗った。水というのはとても、とても重要なの。水は宇宙に存在し生きている全てのものの中に含まれているでしょう。生命の水には宇宙における生命の創造についての全ての情報が含まれているし、人間からほとばしり出たあらゆる思考や思いも含まれている。水は人間の感情を読み取り、それに反応する。」
「多分そうかもしれない。アナスタシア、私にはよくわからないが。ただ、どうして夜に泳ぐんだ?なんのために?」
「ウラジミール、私は人が初めてこの世界に生を受けた世の始まりの時から現在まで、どのように生きてきたかを知りたいの。彼らがいつ、何歳の時、どの瞬間に一番幸せだったか、何が彼らに最高の幸せをもたらしたのか、それをはっきり知るために。そうしてそれを、今を生きる人々に話したいの。彼らの幸せと、子供達の幸せのために。」
「だけど何世紀も前に生きていた人々の行いを知ることなんて、本当にできるのかい?」
「できるのよ、ウラジミール。子供は成長するにつれて、外見だけではなくその内面も両親に似て来るけれど、それだけじゃなくて、最初に創られた人間にも似て来るの。彼と同じ血をもち、記憶の奥深くに、創造のはじめからの全ての情報を携えている。ただ、それらの情報について考えようとしないだけ。もし思い出そうと努めれば、全てを思い出せる。」
「思い出せるとしても、その人の先祖に関しての記憶だけだろう?」
「もちろんよ、ウラジミール。彼の先祖を通して、その前の先祖たちの情報がくる。私の細胞の中の記憶は、私以外の誰でもなく、私の遠い先祖たちの人生の場面を見せてくれる。」
アナスタシアはこう言うと、立ち上がって湖に走り寄り、水に触れて私の方を振り返った。
「だけど、水は全ての人の過去を知っている。水は宇宙の中で起こった全てのこと、全ての人々に関する情報を持っている。そして水は、私がそれを見るのを助けてくれる。私が湖の真ん中、水の中で考えるとき、水は私と一緒に考え、見るべき光景を探し出してくれる。水は全ての惑星で起こっていることを走査する力も持っている。なぜなら水はどこにでも存在するから。
星たちは湖に映っていて、私の目にも映っている。その時、私と星は一つになって、私は宇宙の全ての情報にアクセスできる。なぜならその瞬間、私は宇宙の中の小さな一部になったように感じるから。人が自分を宇宙の中の小さな一部のように感じると、その瞬間、宇宙は歓喜して、彼のためになんでもしようという態勢になる。そしてその人が考えていることを現実化するべく働いてくれる。」
アナスタシアが宇宙や星や水について、確信に満ちて静かに話すのを聞きながら、私は思った。
(タイガに住む美しい女性アナスタシア。彼女は今日の技術優先の世界で、我々が抱えている日常の悩みや問題には全く煩わされていない。おそらくそれは彼女の宇宙に関する考え方や見解が、我々とは格段に違うからだ。こんなにも確信に満ちて、自分の宇宙観、世界観について話す彼女に、私の疑念をぶつけるのは何とも大人気ないことだ。)
私は湖畔に立つ彼女に向かって、大きな声で言った。
「アナスタシア、君はまるで調査研究員みたいだ。人類の生活について細かく分析しているんだろう。今から遡ってどのくらいの期間が調査できたんだい?」
「まだほんの短い期間、たった9千年間。」
「君のほんの短い、はかなりのものだな。それで君は、自分の見た光景からどんな結論を導き出したんだ?」
「その結論については後で話すわ、ウラジミール。私の見た光景をあなたや他の人々に見てもらって、自分たちで結論を出してもらってもいいし。」
「彼らが君の言ったことを信じれば、結論は導き出せると思う。例えば、君は水について普通とは違ったことを言った。だけど、水が様々な情報を蓄積しているとか、さらに加えて人間の感情に反応するとか、一体どこに根拠があるんだい?」
「あなた方の世界のいまの科学者たちが持っていると思う。」
「それにしては聞いたことのない話だが。我々は水に対しては、単純に考えていて、水は水なんだ。人間の環境の小さな一部。」
「そう、小さな一部、生きている一部。でも誰も水を生きているものとは考えない。体の大部分が水でできているのに、生きていると言うとその証拠を求める。ウラジミール、生きている水が持つ偉大な可能性について、自分で感じる方法があるのよ。」
「教えてくれるかな。」
「水の癒しの特性を体験したいなら、自分にとって一番美味しい水が湧き出ている泉を見つけるの。その水を家に持ち帰って、器に入れて凍らせる。そして毎晩、1日に必要な量の水を、ちょっと見栄えのする器に入れて、テーブルの上に置く。器の下にはできればグリーンの布を敷いて。寝る前にその水に向かって何か良い言葉をかけてあげるか、あるいは、黙ってやさいい思いを注いであげる。部屋は暖かすぎないように、水の中に少し氷が残っている状態にする。もし氷がなくなっていたら、寒いところにおいてある氷を少し入れて。氷を少しお湯に入れたり、暑いお茶に入れるのもいいの。氷が溶けていく時に、優しさを持って水のことを考えて。そして素敵な言葉をかけてあげる。生き物に対するように。氷が溶けた水に杉のオイルを一滴垂らしてもいい。水の量が多くても少なくても、その一滴で情報が水全体に広がるの。この情報がとても大切。
寝る前にその器の水をゆっくりと混ぜるようにして、そこに息を吹きかける。
翌朝起きたら、水に向かって「おはよう!」と挨拶する。その水をゆっくりと、ゆっくりと、ほんの少し、すするように飲むといい。その水で顔も洗うといいわ。もしあなたの体内に何か病気があれは、水はそれを癒やしはじめ、完璧に治してしまう。あなたは3日で体調が良くなったと感じる。99日間この水を使えば、どんなに重い病気でも、あなたの体から抜けて行く。そして顔の肌も見違えるほど綺麗になる。体をもっと若返らせて、頭も回転ももっと早くしたいと思うなら、水だけではなく、杉のオイルを朝と昼と夕暮れ時にひとすすりづつして、いろいろなハーブや花粉からの蜜を好きな量だけ取る。水には混ぜないようにして。これを30日間続けたら、頭の回転が早くなり、身体も若返る。」
「アナスタシア、面白い話だね。それなら科学者や普通の人が実験して確かめることができるな。それにしても、こういうこと全てを一体、どうやって知ったんだい?先祖から教えられたのか?」
「水が教えてくれた。」とアナスタシアは言って、笑い始め、何かに弾かれたように嬉しそうにくるくると回り始めた。
それから動きを止め、真面目な表情に戻って付け加えた。
「それに星にも教わった。」

続く→




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