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「アナスタシア・響きわたるシベリア杉」22

2019.04.25.10:00

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森の学校

「アナスタシア、今の子育ての話は、ご両親が君を育てた方法かい?」
彼女は少しの間、黙っていた。
多分、幼少の頃に想いを馳せていたのだろう。
草の上に座り、草の葉を両手のひらで撫でるようにしながら話し始めた。
「両親のことはほとんど覚えていないの。祖父と曽祖父が、だいたい私が話したようなやり方で、私を育ててくれた。だけど大事なのは、私自身が周りの自然や動物たちをよく理解できたこと。
彼らが存在する意味や目的は知らないまま。でも分かり合えれば、それらは重要なことではない。この草地で両親を知らずに育ったけれど、私はひとりぼっちじゃなかった。周りの草むらにはカブトムシとかたくさんの昆虫がいた。私が手を伸ばすと、彼らは私の手のひらの上で飛んだり這い回ったりして、動き回る。私は彼らをじっと観察して、それぞれの虫が、どうしてこんなに違うんだろうって考えた。それだけで、彼らと遊ぶのが楽しくてしょうがなかった。他に理由はいらないでしょ?
大きな動物たちも大好きだった。特に私が走れるようになってからは、彼らととっても面白い時間を過ごした。まず友達になったのは、子供狼とメス熊と狐。彼らとはよくケンカもした。私を草地から外へ出してくれなかったから。私は彼らの言葉や考えをなんとか理解して、その理由を知りたかった。とにかく私は草地から出て見たかった。大きな動物が近くにいないときを見計らって、タイガへ入って行きたかった。そこに何があるのか確かめて見たかったから。
だけど私がちょっとでも草地を離れようとすると、彼らのうちのだれかが必ず飛んできて、私に向かってぎゃあぎゃあ吠えたてた。
あるときは、メス熊が私を前足で叩いたから、私はカンカンに怒って、そのあと一切、彼女の方を見ないように、目を合わせないようにした。彼女は一日中オロオロしながら、私の後を付いてきたけど、私は逃げて完全に無視した。でも彼女がついにあまりに悲しげな鳴き声をあげたので、可哀想になって、彼女のところに走って行って、いっぱい撫でてあげた。彼女はすり寄ってきて、私の手と足をぺろぺろ舐めた。本当に嬉しそうだった。
そのときわかった。動物は唸ったり、吠えたりする声のトーンやジェスチャーで、話をするんだって。それから私は彼らを間近に観察して、彼らの言語を理解するようになって、やっとわかった。
その動物たちは、この草地で会う仲間たちと同じように私を知っているわけではないからだって。
祖父と曽祖父は、時々この草地へやってきて、私と話をした。彼らは来るたびに、私に答えさせたいと思ういろいろな質問をしてきた。私たちの間では、年配の人たちは、赤ちゃんや小さな子供たちを、神性を宿す尊い存在として扱う。子供に問いかけた時に返ってくる答えによって、自分の純粋さを確かめるのよ。」
「祖父と曽祖父からの質問と答えで、何か印象に残っているものがあれば聞かせて欲しい。」と私が言うと、彼女は嬉しそうに微笑んで話し始めた。
「私が蛇と遊んでいたときのことを話すわ。蛇と遊んでいて、ふと振り向くと、祖父と曽祖父がすぐそばにニコニコしながら立っていた。二人を見て、私はすごく嬉しかった。彼らと一緒にいる時間は、いつもとても楽しかったから。彼らは私にいろいろなことを質問してくれる唯一の存在だったし、その心臓の鼓動も、動物たちとは違って、私と同じリズムだった。私は二人のところに走って行った。曽祖父は私の顔を覗くようにかがみこんで、祖父は私を膝に抱き上げた。
私は祖父の心臓の鼓動に耳を済まし、彼のあごひげを手でとかしながら調べ始めた。3人とも黙っていた。何かを考えていた。私の心の奥の方に、とても心地よくて静かな喜びに満ちた感情が満ちてきた。そのとき、祖父が私に聞いた。(アナスタシア、どうして私のここに毛が生えているのか教えてくれないかな。)と言って、頭と顎を示し、そして、(どうしてここには生えていないの?)と言って、額と鼻を指した。
私は彼の額と顎に触って見たけれど、答えは出てこなかった。私はわからないことを適当に話したりはできない子供だった。自分で理解できていないことは、言葉にならない。その次に二人がやってきたとき、祖父はまた言った。(私はどうしてここに毛が生えていて、ここに生えていないのか、まだ考えているんだよ。)そう言いながら、額と鼻を指した。
祖父は真剣な表情で私をじっと見つめた。そのとき私は、これはきっと彼にとってとても重大な問題なのだろうと思って、彼に聞いた。(おじいちゃんは、毛が全部に生えたらいいなって思っているの?額とか鼻にも。)曽祖父はじっと考え込んでいたけど、祖父は、(いや、そうは思っていないよ。)と答えた。その瞬間、私は言った。(だから毛はそこに生えてこないのよ。おじいちゃんがそこには毛が生えて欲しくないと思っているから。)って。祖父はあごひげを撫でながら考え込んでいた。(じゃあ、このあごひげは、私がここに生えて欲しいと思っているから、ここに生えているの?)(もちろんそうよ、おじいちゃん。おじいちゃんも私も、そして誰だかわからないけれど、おじいちゃんを創った人も、そこに毛が生えて欲しいと思っているの。)
私のこの答えを聞いて、曽祖父が興奮気味に言った。(それで誰が、一体誰がおじいちゃんを創ったの?)(いろんなもの全部をつくったひと。)と私が答えたら、曽祖父はしゃがみこんで私を覗き込むようにじっと見つめて言った。
(だけど、その人はどこにいるの?その人に合わせてくれる?)私はすぐには答えられなかった。でもこの質問はずっと私の中にとどまったままで、それ以来私は、そのことについて時々考えるようになった。」
「それで君は、後でその質問に答えたの?」
「私がその質問に答えたのは、それから一年くらい立ってからだった。そうすると二人はまた新しい質問をいくつかしてきたの。そして私がそれに応えるまで、彼らはそれ以上質問をしようとはしなかった。それは私にとってとても辛いことだった。」

続く→



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