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「アナスタシア・響き渡るシベリア杉」25

2019.05.11.23:46

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人間の脳こそスーパーコンピューター

UFOを作れるかもしれない…その可能性について、私は大いに好奇心をそそられた。
その動力の原理を仮説として考えるだけでも、新しい挑戦になる。
だが、UFOは非常に複雑な構造をしており、我々地球人にとって、今のところ優先順位の高い必需品ではない。
それよりも今、即座に理解できる何かについて、アナスタシアに聞いておくべきだ。
科学者たちによる調査研究を必要とせず、我々の生活の中ですぐ実行すべく応用できて、全ての人々にとって益となる、そういった何か、について。
私はアナスタシアに、今日の我々の社会が直面する緊急の課題に対する解決策、それについての提案を聞きたいと言ってみた。
彼女は同意したが、逆に聞いてきた。
「まずあなたがその問題を、明確に話してくれないといけない。あなたが何を解決したいのか、私がそれを知らなければ答えられないでしょ?」
では、ここで取り上げるべき最も適切な問題は何か?
考え始めた私の頭に浮かんできたのは、大気汚染という言葉だった。
「大都市に住む我々は今、非常に深刻な大気汚染の問題を抱えているんだ。空気がとても汚れていて、息も吸えない状況だ。」
「あなた方が汚染している。」
「その通り。我々みんながね。あ、ちょっと待って。ただ、もっと環境に優しくとか、もっと木を植えるべきだとか、そういう風に哲学的に説くのはやめてくれ。全ての現状をそのまま捉えて、解決策を考えて欲しい。例えば、国の財源から支出せずに、大都市の大気汚染を今より50%減少させるには、どうしたらいいかとか。君が出す案は、あらゆる選択肢のなかで最も理にかなっていて、即座に実行可能で、私や他の誰にでも理解できるものでなければならないよ。」
「今すぐやってみる。」とアナスタシアは答え、「変数のリストは揃っている?」と言った。
万一に備えて、彼女には問題をさらに複雑化して示さなければと私は思った。
彼女の知性や能力が、本当に我々の理性が及ぶ範囲を超えて高かった場合どうするか?
そこで私は付け加えて言った。
「君が思いつく案は、何であれ、利益を生み出すものでなければいけないよ。」
「誰にとっての利益?」
「私にとって。それから国にとってもね。君はロシアに住んでいるね。国というのはロシア全土のことだよ。」
「利益って、お金のことを言っているの?」
「そうだよ。」
「たくさんのお金?」
「アナスタシア、金の話をすれば、利益がありすぎるということは決してない。だがこの旅にかかった費用や次の旅の費用を支払うのに、十分な利益が必要だし、それと、国には…」
そこで私は一瞬考えた。
アナスタシアが文明社会の物質的なものに関心を持ったらどうなるのか?
「君は何か欲しいものはないのかい?」
「私には全てがある。」と彼女は答えた。
唐突にある考えが私の頭に浮かび、これには彼女もきっと興味を示すに違いないと確信した。
「アナスタシア、君が思いつく案が、ロシア中の君の好きなダーチュニクの役に立つようにしよう。君の提案が生み出す利益で、彼らが無料かあるいは少なくとも、大幅な割引でタネを手に入れられるようにする。名案だろう?」
「それは素晴らしい!」とアナスタシアは叫んだ。
「素敵なことを思いついたのね。条件はそれだけ?それならすぐに取り掛かりたい。嬉しい!タネが無料で配れるなんて…。それとも、まだ他に何かある?」
「いや、今のところこれで十分だよ。」

この課題は私の思惑通り、特にダーチュニクへの無料のタネの配布という点で、彼女を喜ばせ奮い立たせた。
だがその時点で私は、彼女の能力を持ってしても、大気汚染の問題への解決策は出てこないだろうと思っていた。
そんな解決策があるとしたら、多くの研究機関がとうの昔に考えついていたはずだ。
アナスタシアは草の上に、いつものように静かにではなく、元気はつらつとした感じで横になり、両腕を横にポンと投げ出した。
彼女の軽く曲げた指は、指先の柔らかな面を上に向けてかすかに動いていたが、ピタリと動かなくなり、閉じた目のまつげが時々震えていた。
彼女はそのままの状態で、そこに20分くらい横たわっていたが、そのあと目を開けて起き上がり、「見つけた!でもなんという悪夢…。」と言った。
「何を見つけた?何が悪夢なんだ?」
「一番の害毒を撒き散らしているのは車。大都市ではあまりにもたくさんの車が動き回っていて、それぞれが人体に悪影響を及ぼす嫌な匂いや物質を出している。何より怖いのは、これらの物質がゴミやホコリの小さな粒子に混ざったり、浸透して行くこと。往来する車が、この排気ガスの混ざった埃を巻き上げ、人々はその恐ろしい混合物を吸っている。そのホコリは四方に飛んで行き、、草や木や、そのほかあらゆるものを覆っている。これはとても危険で、人間の健康にも植物にも有害。」
「もちろん、それは危険なものだよ。だけど、それはみんなが知っていることなんだ。ただ誰もどうすることも出来ないわけで、道路清掃車みたいなものはあるけれど、何の役にも立たない。アナスタシア、君は新しいものは何も全く発見できなかったね。汚染を除去する君のオリジナルな方法は見つからなかったというわけだ。」
「私はただ被害の主な元凶を、特定しただけ。これからそれを分析するの。長い時間集中する必要があるわ。今までこの問題について勉強したことはないから、多分1時間くらいかかるかもしれない。退屈するといけないから、あなたは森を散歩してきたらどうかしら?」
「わかった、気にしないでゆっくり考えて。私は時間潰しができるから。」
アナスタシアは間もなく完全に自分の世界に入り込んでいったようだったが、森の中を1時間ほど散歩して戻ってみると、彼女はどこか落胆した様子でそこに座っていた。
少なくとも私にはそう見えたので、私は口を開いた。
「ほらね、アナスタシア。君の頭脳を持ってしてもダメだったね。いや心配することはないよ。多くの研究機関がこの問題を追求しているけれど、彼らも君のように、汚染の事実を確認しただけなんだ。彼らだって今に至るまで、何も手を打つことが出来ずにいるのだからね。」
彼女は何か謝るような口調で言った。
「あらゆる可能な選択肢を検討して見たけれど、即座に50%減少させる方法は、見つからなかった。」
私の中でまた警報が鳴った。
結局のところ、彼女は何かを見つけたに違いない。
「で、何%だったんだい?」
彼女はため息をついた。
「だいぶ低いの。35から40%くらいまで。」
「何だって!」私は思わず叫んでしまった。
「これだけではだめよね。」
またしても喉がカラカラになってきた。
彼女は嘘は言えないし、話を大きくしたり小さくしたりも出来ない。
興奮を抑えて私は言った。
「課題の条件を変えよう。38%にしよう。君が思いついたことを早く話して。」
「全ての車が汚いホコリを吸い上げるようにする。撒き散らすのではなくて。」
「一体、どうやって?」
「車の前の部分、あのなんていうの?突き出している部分。」
「バンパー。」
「わかった、バンパーね。そのバンパーの内側か底の部分に、前方に穴がぽつぽつあいた箱を取り付ける。箱の裏側にも空気が抜ける同じような穴が必要よ。車が動くと、有害なホコリを含んだ空気の流れが前の穴から流れ込み、そこで洗浄されて、後ろの穴から出て行く空気は、20%浄化されている。」
「さっき君が言った40%はどうなったの?」
「いまのところ、このホコリが通りから消えて無くなることはない。だけど、この方法を使えば、ずっと少なくなるはず。毎日あらゆる場所で車がどんどんホコリを吸い込むわけだから、全ての車がこの小さな箱を取り付けたと仮定して計算してみると、1ヶ月でこの汚いホコリは、40%減少することがわかった。だけどそれ以上は汚染のパーセンテージは減らないの。他の要素が働いてくるから。」
「その箱の大きさは?その中に何をいれておく?穴はいくつくらい開ければいい?穴の大きさは?」
「ウラジミール、私にその箱を取り付けさせたいの?車1台1台に?」
私は彼女にもユーモアのセンスというものがあるのだと、そのとき初めて気がついた。
アナスタシアが自分で作った箱を、次々と車に取り付けている場面を思い浮かべて、私は大きな声で笑い出した。
彼女も笑い出し、いつものように楽しげに草地をくるくる回り始めた。
彼女のアイデアはシンプルだ。
あとは技術的な問題だけだ。
私の頭の中ではすでに、アナスタシアの助けなしに、この案がどのように現実化されて行くかを思い描くことができた。
政府首脳部からの法令による指示、車両視察団によるモニタリング、ガソリンスタンドでの従来のフィルターから新しいフィルターへの交換、その証明書の発行システムなどなど。
全てがシートベルトの時のように簡単な手続きだ。
ペンのひと書きで、全ての車にシートベルトが取り付けられたように、今度はペンのひと書きで空気がきれいになる。
起業家たちはその箱を売るための仕入れに殺到し、工場で働く人が増え、そして何よりも結果として空気がきれいになるのだ。
「ちょっと待って。」
私はアナスタシアの方をもう一度振り返った。
彼女はまだ楽しげに踊っている。
「箱の中には何を入れるの?」
「箱の中に、箱の中に、どうして自分でちょっとぐらい考えて見ないの?とてもシンプルなこと。」と彼女は、動きを止めずに言った。
「でも私やダーチュニクのためのお金は、どこから生まれてくるんだ?彼らに十分なタネを配るための。」と、私はさらに質問した。
彼女は動きを止めた。
「どこからって、どういう意味?あなたはその案はもっとも理にかなったものでなければならないと言ったでしょう?そして私は最も理にかなった案を思いついた。この装置はロシア中の大きな都市に広まって行く。そして人々はこの案に賛同し、無料のタネを配布するに十分な資金を国に支払うはず。あなたもある一定の条件さえ満たせば、必要な金額を受け取れるわ。」
その時私は、ある一定の条件という言葉で、彼女が何を言っているのか、気に止めることもなく、他のことをはっきりさせようとして質問していた。
「ということは、これは専売特許をとるべきだということ?君の案に対して自発的にお金を支払う人などいるわけがないから。」
「どうして?みんな支払うはずよ。利益を計算して見ましょうか?生産された箱からは、ロシアには2%、あなたには100分の1%が行く。」
「君の出すパーセンテージがなんの役に立つ?君はある分野には強いけど、ビジネスの分野では全く素人だよ。お金を自発的に払う人なんていやしない。署名入りの契約書があっても払わない人さえ大勢いるのだから。どれだけの貸し倒れが出ているか、君が知っていればと思うよ。仲裁裁判所はいつも手一杯なんだ。ところで君は仲裁裁判所ってなんだか知っているかい?」
「だいたいわかる。でもこの場合は、みんなしっかりと払うはず。これを払わない人は破産するようになる。正直な人だけが栄える。」
「どうして破産するんだ?君は強制執行者か何かになるつもりかい?」
「まさか、あなたには思いもよらないでしょうけれど、そういう人は自ら、つまり自分を破綻に追い込んでしまうように環境そのものを形成させてしまう。」
その時私はある考えにとらわれた。
アナスタシアが嘘をつけず、彼女自身、自分で言っていたように、自然のメカニズムが彼女に過ちを許さないとするならば、この案を私に発表する前に、彼女は頭の中でそれまでにないほどの膨大な量の情報を精査し、おびただしい数の計算をしたに違いない。
またその一方で、彼女のプロジェクトに関わってくる人々の膨大な数にのぼる心理的要素も念頭に置いていたはずだ。
彼女は空氣を綺麗にするという非常に難しい問題に対する解決策を示しただけではなく、我々の世界でいうビジネスプランまで作成して分析して見せた。
しかもこれらすべてをわずか1時間半でやって退けたのだ。
私はいくつかの点についてさらに詳しく聞いておくべきだと感じて、彼女に尋ねた。
「アナスタシア、君の頭の中で、大気汚染の減少率を用いて、車に取りつける箱の販売やフィルターの交換などから生じる利益を計算したの?」
「そうよ、とても細かい計算がなされた。ただ私の脳は使っていないけど。」
「ちょっと待って。黙って。聞きたいことはまだあるんだ。君は世界で最も優れたコンピューター、例えば日本製とか、アメリカ製の、と競争して勝てると思う?」
「私はコンピュータには興味がない。」と彼女は答え、「あれはとても原始的で、屈辱的なものに見える。コンピューターと競争するのは…ええと、明確な例をあげて説明するにはどうしたらいいかしら。まるで人工の腕とか脚とかと、競う感じ。しかもその腕とか脚の全部じゃなくて、一部と。コンピュータには一番大事なものが欠けている。一番大事なのは、気持ちよ。」と続けた。

私は逆のことを証明しようとして、我々の世界で、知的レベルが非常に高いとされ、社会の中で尊敬されている人々が、どんな風にコンピューターとチェスをするかを彼女に説明した。
しかしこの例も、別の例も、彼女を納得させることはできなかった。
そこで私は、人間の脳が持つ無限の可能性を人々に証明するために、コンピューターとの競争をやって見て欲しいのだともう一度頼んだ。
彼女がやっと快諾したので、私はすかさず念を押した。
「君が日本製のコンピューターと問題を解く競争をする。その準備があると公の公表していいんだね?」
「どうして日本製なの?」
「どうしてって、コンピューターでは日本製が世界で一番だからだよ。」
「ああ、そうなの。じゃあ日本製の全てのコンピューターと一度に競うのはどうかしら?なんどもこの退屈なゲームをやらされたくないから。」
「素晴らしい!」私は思わず手を叩いた。
「全てのコンピューターとやって見て。問題は一つだけ考えてくれればいいから。」
「いいわ。」と彼女は渋々承諾しかけたが、付け加えて言った。
「だけどまず手始めに、問題を考える時間がもったいないから、あなたがさっき私に出したのと同じ問題をコンピューターに解かせて。私の答えがあっているか間違っているかを、判断させるのはどう?もし彼らが私の答えを間違っているとするなら、自分の答えを示さないといけない。審判員は一般の人々と、彼らの生活そのもの。」
「素晴らしいよ!アナスタシア。素敵な考えだ!これは建設的だ。この問題を回答するのに、彼らはどのくらい時間が必要だと思う?君がかかった1時間半で十分とはとても思えないね。彼らには3ヶ月の期間を与えようか。」
「わかった、3ヶ月ね。」
「審判になりたい人はなれるようにするといいね。審判がたくさんいれば、出てくる結果に不純な動機で影響を与えたりできないから。」
「そうね、それがいい。ところでウラジミール、私は子育てについて、もう少しあなたに話したいことがあるの。」
アナスタシアは子育てを非常に大切なメインテーマとしていて、これについて話すときはいつも楽しそうだった。
コンピューターとの競争に関する私の思いつきは、彼女の関心を喚起することにならなかったが、彼女の承諾を得られただけでも私は嬉しかった。
私は競技会に参加するであろう最新のコンピューターの生産工場を訪問したいと思ったので、もう少しいくつかの点についてアナスタシアと詰めておかねばと思った。
「勝者にあげる賞は、なんという賞にする?」
「私は何もいらない。」
「どうして、私は、なんだい?君は自分が絶対に勝つと思っているのか?」
「当然でしょう。私は人間よ。」
「よしわかった。君の次に優秀だったコンピューター会社には何をあげる?」
「そうね、彼らの原始的なコンピューターへの改善策を提案しましょうか?」
「よし、それで行こう!」


続く→









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