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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー44

2020.03.24.22:47

75

インド ニューデリー クロックタワー支局本部 危機管理室

ドリアンは室内を歩き回り、ドローンから映像が送られてくるのを待っていた。
並んだスクリーンが次々と明るくなって息を吹き返し、山腹に立つ一軒の寺院を映し出した。
技術者が振り返った。
「少し旋回して、最適なポイントを探しま…」
「その必要はない。あの土台の右側あたりに撃ち込め。大体でいい。火をつけるのが目的だからな。もう一機ドローンを旋回させて、様子を撮影しろ。」
ドリアンは言った。
1分後、ドリアンの見守る前で、ドローンから発射されたロケットが山の斜面に激突した。
彼は待った。
その燃える建物からケイト・ワーナーが走り出てくることを期待して。

76

チベット自治区 イマルの寺院

ケイトは日記を置いて首を伸ばし、何が起きているのかと遠方に目を向けた。
何かが爆発したような音だった。
それとも崖崩れだろうか?
地震があったとか?
一番遠い山脈の向こうに煙が上がっていた。
白い煙が次第に黒くなっていく。
まさか、イマリが探しに来たのだろうか?
もしそうだとしても、一体自分に何ができるだろう。
ケイトはデヴィッドに午後の分の抗生物質を飲ませ、彼のためにまた日記を朗読し始めた。

1917年8月5日

私とヘレナは暖かい海風が吹き寄せる石畳の波止場を散歩し、湾に入ってくる船や港についた船が鳴らす汽笛の音を聞いていた。
荒々しくそびえる(ジブラルタルの岩)の下では、木造の船着場がまるで積み重ねた爪楊枝のように小さく見えた。
私がポケットに手を入れると、彼女は私の腕に自分の腕を巻き付け、次第に体を寄せて私とぴったり同じ歩調で歩くようになった。
私はそれをいい兆候とみなした。
通りにはポツリポツリと明かりが灯り始めていた。
スペイン式のシェスタから起きてきた店主たちが、夕食時の混雑や、彼の買い物客に備えて支度を始めたのだろう。
一歩踏み出すたびに、足にナイフがねじ込まれる。
そういう感覚を覚えながら歩いていた。
重く響く痛みのせいで眉に汗が溜まっていたが、手を上げてそれを拭こうとは思わなかった。
彼女の腕が離れてしまうことが心配だったのだ。
ヘレナが立ち止まった。
その目が汗を見つめていた。
「パトリック、痛むの?」
「まさか、そんなことはないさ。」
私は袖で額を拭った。
「この暑さに慣れていないだけだ。ずっと扇風機がある室内にいるもんだから、なかなか適応できないんだろう。おまけに俺はウエストバージニア育ちだから。」
彼女が岩の方に顎をしゃくった。
「洞窟の中の方が涼しいわ。それにあそこにはたくさんの猿が住んでいるのよ。見たことある?」
私が冗談かと聞くと、彼女は本当だと断言した。
私は夕食までまだ時間があるので、そこへ連れて行ってくれと頼んだ。
なぜなら、彼女がまだ私の腕に手をかけていたからだ。
そうしてくれるなら、私はどこへでもいくつもりだった。
イギリス人の軍曹が、私たちのためにガイドをし、聖ミカエル洞窟の奥にある猿の檻まで案内してくれた。
私たちの声が洞窟に反響していた。
その猿は、バーバリーマカクと呼ばれる種類で、尻尾がない点を除けば、マカク属の猿によく似ていた。
ヨーロッパに野生の猿はいないとされている。
ということは、このジブラルタルのバーバリーマカクはヨーロッパに野生状態で生息している唯一の霊長類と言えるのだろう。
進化論を信じるなら人間も霊長類に入るらしいが、私自身は信じていいのかどうかよくわからない。
洞窟を後にして夕食をとりに向かいながら、彼女になぜ猿のことを知っていたのか聞いてみた。
「イギリス海軍病院が病気の猿を治療しているのよ。」
彼女が言った。
「冗談だろ。」
「本当よ。」
「危険じゃないのか?猿と人間を同じ場所で治療したりして。」
「多分大丈夫だと思うわ。猿の病気が人間に伝染するなんて、ちょっと考えられないもの。」
「なぜわざわざ猿なんか?」
「言い伝えがあるからよ。ジブラルタルのあのマカクがいる限り、イギリスがここを統治できると言われているの。」
「君たちは迷信深い質なんだな。」
「もっと単純に、大切に思うものは、世話をしたくなるのかもしれないわね。」
2人ともしばらく黙って歩き続けた。
もしかすると、彼女にとって私はペットのような存在なのだろうか?
あるいは保護すべき対象か。
それともただ単に、病院で助けてもらった借りを返そうとしているだけなのかも知れない。
痛みが堪えきれなくなっていた。
彼女が無言で足を止め、腕は組んだまま、湾に沈む夕陽に照らされた(ロック)の方へ私を向き直らせた。
「ロックにはもう一つ言い伝えがあるのよ。古代ギリシャの人々によれば、あれはヘラクレスがヨーロッパとアフリカを割ったときにできた柱で、その下にある洞窟やトンネルは地中深く、冥界の門までつながっているという話なの。」
「地獄の門か。」
彼女は悪戯っぽく眉をあげた。
「本当につながっていると思う?」
「いや、どうだろうな。ここから1700キロほどの場所に地獄があるのは確かだが。西部戦線の塹壕にな。」
彼女が表情を曇らせて、俯いた。
彼女は冗談を言い、私も気の利いた言葉を返そうとしたのだが、私のせいで戦争のことを思い出させてしまったのだ。
雰囲気が台無しになってしまった。
できることなら時間を遡って、やり直したかった。
彼女が明るさを取り戻し、私の腕を引き寄せた。
「でも、私としては、あなたがそこから遠く離れてくれて嬉しいわ…それに、もう戻らなくていいんだもの。」
私は口を開いたが、それを遮るように彼女が続けた。
私が何か憂鬱なことを言うと、思ったのかもしれない。
「お腹は空いてる?」

ワインが運ばれてくると、私は薬代わりのように立て続けに2杯飲んだ。
彼女はグラスに半分しか飲まなかった。
おそらくそれが作法なのだろう。
本当はもっと飲んで欲しかった…たとえ一瞬でも殻が破れれば、彼女が何を考え、何を感じているかわかるからだ。
とはいえ料理が出されると、私たちは揃ってその匂いを嗅ぎ、見た目を褒めていた。
「ヘレナ、ずっと君に話したいことがあったんだ。」
その台詞はやけに深刻に響いた。
彼女を身構えさせないよう、もっと砕けた雰囲気で切り出したかったのだが。
彼女がフォークをおき、微かに顎を動かして、口に入れたばかりの小さな一口を噛んだ。
私は先を続けた。
「君は寛大にも、私をずっと家に置いてくれた。これまでお礼を言ったかどうかわからないが、本当に感謝しているんだ。」
「大したことじゃないわ。」
「とても大変なことだよ。」
「そんなふうに感じたことはないわよ。」
「それでも、そろそろ自分の家を見つけるべきだと思う。もう…回復期は過ぎたんだから。」
「もう少し様子を見た方が安全よ。完全に治ったとは言い切れないでしょう。ドクター・カーライルも歩いているうちにまた悪くなる可能性があると言っていたじゃない。」
彼女は皿の料理をフォークでいじっていた。
「俺が心配しているのは足のことじゃない。世間の噂だよ。未婚の男女が、一つ屋根の下に住んでいるわけだからね。」
「噂なんて気にし始めたらキリがないわ。」
「だが、君を話題にして欲しくないんだ。住む場所が見つかったら仕事も探したいと思っている。自分の生活を立て直していかないと。」
「でも勤務地が分かるまで待つ方が、理にかなっていると思うけど。先にあれこれ決めてしまわずに。」
「それはそうだが。」
彼女がわずかに顔を明るくした。
「そのことだけど、実は、仕事の件であなたと話したがっている人たちがいるの。父の友人なんだけど。」
自分でも驚いたことに、私は怒りを隠しきれなかった。
「お父さんに、俺の仕事を見つけてくれと頼んだんだね。」
「頼んでないわ。本当よ、頼みたかったけど、あなたがどう感じるかわかっていたもの。1週間前に父の方から電話して来たのよ。先方はとても熱心らしいんだけど、あなたの心づもりがわからないから待ってもらっていたの。」
「まあ、会うだけなら、問題はないと思うが。」
私は言った。
それが、人生最大の過ちだった。

続く→

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