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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー47

2020.03.29.12:57

しばらく待っていたが、何も聞こえないとわかると、リュトがーは例の箱のスイッチを入れてトロッコの運転席に乗り込んだ。
クレイグが私の背中を叩いた。
「準備ができましたよ、ミスター・ピアーズ。」
彼は助手席に乗り、私は後のベンチ席に座った。
リュトガーの運転はめちゃくちゃだった。
闇雲に入り口のレールに突進したかと思うと、衝突寸前でステアリングを切って軌道に乗り、そこから一層速度を上げて、地中へと突っ込んで行った。
私たちはまるでジュール・ベルヌの小説に入り込んだようだった。
確か「地底旅行」という題名だったか。
構内は真っ暗で、トロッコの薄暗いヘッドランプだけが、かろうじて前方3メートルほどを照らしていた。
私たちはもう1時間にも思えるほど長い間猛スピードで走っていたが、その間私は、ただただ唖然としているだけだった。
最も坑道に響く爆音の中では、何を言っても聞こえなかっただろうが。
想像を絶するほどの規模だった。
坑道は幅も高さもたっぷりあり、その上、悔しいことだが、実に見事に掘られていた。
これは宝探しの坑道などではない。
本格的に掘り込まれた地下通路だ。
坑道に入ってからの数分間は、ずっとカーブが続いていた。
螺旋状のトンネルを下っていたのだろう。
コルクの栓抜きのように地を穿ち、湾の下に達するほど地中深く潜り込んだトンネルだ。
螺旋状のトンネルの後は、少し広めの場所に出た。
備品の保管などに使われる中間準備地帯だと思われた。
だが木枠や箱やらが一瞬見えはしたものの、すぐにリュトガーがスピードをもう一段階上げて、直線の坑道を飛ばし始めた。
一定の角度で下りの傾斜が続き、1秒毎に空気の湿り気が増していくのが分かった。
何度か分岐点を迎えたが、それでもリュトガーは速度を落とさなかった。
右へ左へとステアリングを切り、ギリギリのところでカーブを曲がるという無謀な運転が続いた。
私はベンチを握り締めていた。
クレイグが身を乗り出して若者の腕に触れたが、耳をつんざくほどの轟音に遮られ、彼が何を言ったかは聞こえなかった。
それがなんであれ効果はなかったようだが。
リュトガーはクレイグの手を払い除け、ますます鼻息を荒くしただけだった。
トロッコのエンジンが悲鳴を上げ、坑道が次々と眼前に迫っては去って行った。
リュトガーがこんな風に危険な運転をするのは、自分は暗闇でも進路がわかること、ここは自分の縄張りであること、自分が私の命を握っていることを証明したいからなのだ。
私を怯えさせたいのだろう、作戦は成功している。
この掘削現場は、これまで私が入った中では最大のものだった。
ウエストバージニアの山にも巨大な鉱山はあるが、それでもここまでのものではない。
坑道がついに荒削りの広い空間に出た、坑夫たちが進路を探り、あちこち掘ってみたという感じの場所だ。
天井から垂れる電気式の照明が、壁にできた凹みやドリルの穴を照らしていた。
壁には火薬で爆破したまま放置された跡がいくつかある。
黒いコードの塊が目に入った。
テーブルの横に束ねて置いてあり、そのテーブルの上には、地上と通じていると思われる電話機が載っていた。
レールもここで終わっていた。
壁際近くにある終着点には、例の小さな軌道車が3台並んでいた。
そのうち2台は上の部分が吹き飛んでいるが、一番手前の3台目は何事もなく、静かに停止していた。
この湿った空間で濃い酸素を探し求めるかのように、炎を大きく燃え上がらせている。
リュトがーがエンジンを切って飛び降り、蝋燭の火を吹き消した。
クレイグも彼に続いてトロッコから降り、私に言った。
「それでどんなご感想ですか、ミスター・ピアーズ?」
「素晴らしい坑道ですね。」
私はもっとこの不思議な空間を見てみようと首を巡らせた。
リュトガーが戻って来た。
「すました顔をするなよ、ピアーズ。こんなすごいものは見たことないんだろ?」
「見たことがあるとは一言も言っていない。」
次の言葉はクレイグに向けて言った。
「メタンガスの問題があるようですね。」
「はい、比較的最近のことですよ。去年になってガスだまりに行き当たるようになったんです。ご覧のように、そちらの対策はあまり講じられていません。そもそも、この現場で最も危険なのは水だと思っていましたから。」
「無理もありませんね。」
これが炭鉱なら、メタンガスの危険は常にあると思っていい。
だが、こんな場所では私だってメタンがあるとは予想できない。
見たところ、石炭や石油を含め、燃料鉱床らしきものは全く存在しないのだ。
クレイグが頭上を示した。
「お気づきでしょうが、ここの坑道は一定の勾配で掘られています。約9度です。問題は、上にある海底の斜度がおよそ11度だということなんです。今いる場所ですとほんの70メートル上方には、海底がある計算になるんですよ。」
私はその意味を悟り、愕然としてしまった。
「メタンガスは海底から来ていると?」
「ああ、そう懸念しています。」
リュトガーは、まるで噂話に興じる老婦人たちを見るように、薄笑いを浮かべていた。
天井を観察した。
クレイグがヘルメットと小さなリュックサックを寄こした。
彼が側面にあるスイッチを入れると、ヘルメットのライトがついた。
私はしばし不思議な思いでそれを見つめていたが、目の前にあるもっと大きな謎と向き合うべく、黙ってヘルメットを被った。
天井の岩は乾いていた。
いい兆候だ。
口にこそしていないが、ここで私たちが心配しているのは、メタンガスだまりが海底の広範囲に広がっている場合のことだった。
もしそれが爆発すれば、規模は恐ろしく大きなものになり、流れ込む海水がほぼ一瞬のうちに、坑道を押し流してしまうだろう。
中にいる人間は焼かれるか溺れるか、潰されるかして死ぬことになる。
あるいはその組み合わせで。
たった一つの火花が、つるはし、落石、車輪とレールの摩擦、そのどれから出たものでもいい…ここを丸ごと吹き飛ばしてしまうのだ。
「もしこの天井と海水の間にガスがあるなら、選択の余地はありませんよ。ここを閉じて別の方法を考えるべきです。」私は言った。
リュトガーが鼻で笑った。
「だから言ったろ、マロリー。こいつには向かないんだ。臆病者ののろまなアメリカ人の相手をしてたって、時間を無駄にするだけだぞ。」
クレイグが手をあげた。
「待ってくれ、リュトガー。我々はお金を払ってミスター・ピアーズに来てもらっているんだ。ちゃんと話を聞こうじゃないか。」
「ふん、お前ならどうするというんだ、ミスター・ピアーズ?」
「どうもしない、計画を中止するだけだ。人命を危険に晒してまで掘るようなものじゃないだろう。経費を考えても割に合わないはずだ。」
リュトガーは呆れたように目玉を上に向け、私たちを無視して辺りを彷徨き始めた。
「残念ながら、それはできないんです、ミスター・ピアーズ。」
クレイグが言った。
「あなたたちは財宝を隠しているんでしょう?」
クレイグは背中で両手をくみ、坑道の奥の方へ歩いて行った。
「この現場の規模をご覧になったでしょう?あなたにもこれが宝探しでないことはわかったはずです。1861年の話ですが、我々はこのジブラルタル湾に、一隻の船を沈めました。
ユートピア号という名前の船です。ちょっとした内輪のジョークですよ。
それはともかく、我々はそれから5年間、沈没現場に潜り続けました。
船を沈めたのは、その海底に埋もれているものを秘密裏に調査したかったからなのです。
そう、ジブラルタルの海底から1、5キロほどの海底に、ある建造物が眠っていたのですよ。
しかし、調べた結果、海から構造物に近づくのは無理だと分かりました。
あまりに深く埋まっているため、単純に我々の潜水技術ではどうにもならなかったんです。具術の進歩を待っている暇もありませんでした。それに世間の注意をひいいてしまうという危惧もありました。貿易船が一隻沈んだという口実で、もう何年もその現場にいましたからね。」
「建造物ですか?」
「はい、都市か、寺院のようなものです。」
戻って来たリュトガーが、私に背を向けてクレイグに言った。
「こいつに教えることはない。大事なものを掘っていると思ったら、もっと金をふっかけてくるぞ。アメリカ人もユダヤ人並みに意地汚いからな。」
クレイグが声を荒げた。
「黙るんだ、リュトガー。」
幼稚な男が何を言おうと無視すればいい。
私は興味をそそられていた。
「なぜその船を沈めるべき場所が分かったんですか?どうして埋まっている場所がそこだと?」
「我々は、おおよそのことは掴んでいたのです。」
「どうやって?」
「古い史料があったからです。」
「ではこの坑道が沈没現場の下に到達したかどうかは、どうやって判断するのですか?」
「コンパスを使い、勾配と距離をもとに坑道の位置を割り出すんです。ここは現場の真下ですよ。証拠もあります。」
そういうとクレイグは壁に近づいて岩を掴んだ。
いや、岩ではなく、汚れた黒い布だ。
彼がその布を引き下ろすと、通路が現れた。
何やら巨大な船の隔壁のようにも見える。
私もそちらに近づき、ヘルメットのライトでその奇妙な空間を照らしてみた。
壁は黒く、一見して金属だと分かったが、反射の仕方が普通とは違っていた。
説明が難しいが、作った鏡とでも言えばいいのか、まるで生きているように私の光に反応しているのだ。
それにライト、通路の天井と床でいくつものライトがキラキラと輝いている。
カーブした通路の先を覗き込むと、突き当たりにはドアか門のような物があることがわかった。
「一体、なんなんですか?」
クレイグも私の肩越しに通路を覗いた。
「我々はアトランティスだと考えています。プラトンの著作に書き残されている都市ですよ。場所もあっています。プラトンによれば、アトランティスは大西洋にある島で、ヘラクレスの柱に挟まれた海峡のすぐ前に位置していたと言いますから。」
「ヘラクレスの柱…」
「はい、ヘラクレスの柱は2本あり、その1本がジブラルタルの岩なんです。プラトンによれば、アトランティスはヨーロッパやアフリカ、アジアを支配し、他の大陸と往来もできたということです。ですが、アトランティスは滅びてしまいました。プラトンはその著書で、巨大な地震と洪水が起こった。そして過酷な1昼夜のうちに戦士全てが大地に埋もれ、アトランティス島も同じように海の底に消えてしまったと、書いています。」
クレイグは奇妙な構造物から離れていった。
「これがそうなんです。我々はついに見つけたんですよ。なぜここでやめるわけにいかないか、これでお分かりでしょう、ミスター・ピアーズ?本当にもう目の前なんです。あなたも一緒にやりませんか?あなたにぜひ協力していただきたい。」
リュトガーが声を上げて笑った。
「時間の無駄だぞ、マロリー。こいつは怖くてたまらないんだ。目を見ればわかる。」
クレイグは私を見つめ続けた。
「彼は無視してください。危険なことは承知しています。報酬をあげても構いません。週に千ドル以上お支払いしますから、お好きな額をいってください。」
私は通路を覗き込み、それからもう一度天井を観察した。
岩は乾いている。
「考えさせてください。」
私は言った。

続く→

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