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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー48

2020.03.29.12:58

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南極大陸東部 第5掘削現場 スノーキャンプ・アルファ

「今の深さは?」
ロバート・ハントは掘削補助員に聞いた。
「1800メートルを過ぎたところです。止めますか?」
「いや、そのままで掘り進めろ。報告を入れてくる。2000メートルに達したら知らせてくれ。」
彼らはもう1キロ半以上、何にもない氷を掘り続けていた。
これまでの掘削現場と同じだ。
ロバートは防寒着の襟を掻き合わせ、大きな掘削用やぐらを離れて、移動式住居に向かった。
途中で2人目の男の横を通り過ぎた。
声をかけたかったが、彼の名前を思い出せなかった。派遣されて来た2人の男はとても無口だった。
自分たちのことをほとんど話そうとしない。
酒を飲むこともなく、ただ黙々と働き続けるだけだった。
過酷な環境下でドリルを運転してもらうのに、これほど理想的な者もいないだろう。
とはいえ、雇用主は近いうちに諦めるかも知れなかった。
この第5掘削現場も、これまでの4カ所と何一つ変わらず、水しか出てこなかいからだ。
この大陸は一個の巨大なアイスキューブのようなものだった。
以前読んだ話によれば、ここ南極には世界の氷の9割と、淡水の7割が存在しているのだという。
世界中の淡水を、湖や川や池、、さらに雲に含まれるものまで集めたとしても、南極で凍りついている水の半分にも達しないというわけだ。
もしその氷が全て溶ければ、世界の姿は大きく変わってしまうだろう。
海面が60メートルも上昇し、あちこちの国が滅びることになる。
もっと詳しく言えば、海抜の低いインドネシアのような国々が水の底に沈んで、地図上から消えてしまうのだ。
ニューヨーク、ニューオリンズ、ロサンゼルス、それにフロリダの大部分も同じ運命にある。
確かに、氷だけならこの南極には山ほどあるだろう。
こんな場所で彼らは、何を掘り出そうというのか?
論理的に考えれば石油だろうが。
何はどうあれ、ロバート自身が石油掘削機器の運転士だからだ。
しかし、ここにある機材はどれも石油とは無関係だった。
それに掘っている穴の内径も違う。
石油ならば送油管を通せるサイズがあればいいのだが、ここのドリルはトラック一台が通れるほどの太い穴を開けているのだ。
いや、トラックを吊って下ろすこともできそうだった。
下に何があるのだろう?
鉱物か?科学的な価値のある化石か何かか?
それとも、土地の権利を主張するための策略なのだろうか?
南極は広大な面積を持っている。
およそ1400万平方キロメートルだ。
ここが一つの国なら、世界で2番目に広い国になるだろう。
むかしロシアで掘削したことがあるが、あそこも過酷な現場だったが、手応えという点ではずっと良かった。
南極はあの広大な国より300万平方キロメートル狭いだけだ。
およそ200万年前はこの南極にも、緑が茂っていたというから、氷の下に膨大な石油が埋もれていても不思議はないし、他にもまだ…。
背後で大きな音が、響いた。
地表に出ているドリルの軸が、激しく回転していた。
刃の先端が空回りしているのだ。
おそらく空洞に行きあたったのだろう。
予想していたことだった。
最近、調査チームが氷中に大きな洞窟や裂け目があることを発見していたからだ。
氷の下の山に、氷河に削られてできたフィヨルドがあるのかも知れなかった。
「ドリルを止めろ!」
ロバートは叫んだが、やぐらの足元にいる男には聞こえないようだった。
手で首を切る仕草をしてみても、ぽかんとした表情を浮かべているだけだ。
無線を掴んで怒鳴った。
「完全停止!」
やぐらの中央で、地表に突き出している長いパイプがぐらつき始めていた。
やぐらそのもののバランスが崩れかけているのだ。
ロバートは無線を放って、そちらへ走った。
男を押し除け、ドリルの停止ボタンを押した。
そして男を掴むと、2人でやぐらから走って逃げた。
あと少しで住居に着くというとき、やぐらが激しく揺れてねじ曲がり、横倒しになる音がした。
真っ二つに折れたドリルの軸が、宙で狂ったように回転した。
60メートルほど離れていても、その轟音は凄まじく、まるでジェット機のエンジンがフル回転しているかのようだった。
やぐらが雪の中に沈み、ドリルの先端が地表に現れた。
カンザスの荒野で吹き荒れる竜巻のように、氷を砕いて進んでくる。
ロバートと男はうつ伏せになり、降り注ぐ氷の破片と雪が、ドリルの回転に合わせて次第に沈んでいくのを待った。
ロバートは顔を上げ、現場に目をやった。
この状況を雇い主は喜ばないだろう。
「何も動かすな。」
彼は男に言った。
住居に入り、無線を手に取った。
「パウンティ、こちらスノー・キング。状況が変わった。」
ロバートはどう報告すべきか迷っていた。
あれは空洞などではない。
他の何かに行きあたったのだ。
あのドリルは、岩でも陸地でも、たとえそれが凍っていようと破砕できる。
ということは、あそこにドリルの刃を弾くような何かが埋まっているのだろう。
そうとしか考えられない。
「了解。スノー・キング。状況を報告しろ。」
控えめに伝える方が得策だ。
あえて危険を冒すことはない。
「何かに突き当たったようだ。」
ロバートは言った。

続く→
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