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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー49

2020.04.02.19:37


イマリの技術者が入って来たのは、ドクター・マーテイン・グレイが仮設本部の窓から外を眺めているときだった。
マーティンは振り返らなかった。
どこまでも広がる白い雪を眺めていると、なぜか心が安らいだ。
「たった今、第3掘削チームから報告が入りました。例の建造物を掘り当てたと思われます。」
「入り口か?」
「いえ。」
マーティンは部屋を横切り、南極の地図が写っている大きなスクリーンを指差した。
「発見場所を教えてくれ。」

81

チベット自治区 イマルの寺院

翌朝ケイトが行ってみると、デヴィッドは目を覚ましていた。
そして、怒っていた。
「なぜ出ていかなかったんだ。もう3日もここにいるそうじゃないか。」
「気分が良くなったみたいで嬉しいわ。」
ケイトは明るい口調で言った。
抗生物質と痛み止めと、水のコップを取りに行った。
デヴィッドは昨日よりも、さらに痩せたように見えた。
あとで食べ物を運んでこなくては。
彼の顔の、突き出た頬骨に触れたいと思ったが、目を覚ました今は一段と手を伸ばせる雰囲気ではなくなっていた。
「聞いているのか。」
デヴィッドが言った。
「まずは薬を飲んで。話はそれからよ。」
ケイトは手のひらに薬を2錠のせて、差し出した。
「何の薬だ?」
デヴィッドは指をさした。
「これが抗生物質、これが痛み止めよ。」
デヴィッドが抗生物質を取って、水で飲み込んだ。
痛み止めを彼の顔に近づけた。
「これも飲まなくちゃ。」
「必要ない。」
「もう充分寝た。」
デヴィッドがベッドに背中を持たせかけた。
「ここを出るんだ、ケイト。」
「私はどこにも…」
「だめだ、出ていけ。約束を忘れたのか?海岸のコテージで君は言っただろう。俺の指示に従うとな。俺が出した条件はそれだけだ。さあ、わかったらここから出ていくんだ。」
「でも…これは医学的な判断よ。その…なんていうのか知らないけど、作戦上の判断とは別の話だわ。」
「屁理屈を言うな。こっちを見ろ。俺が歩いて出られないことはわかるだろう。俺も、ここを出るには、どれだけ歩かなくちゃならないか知っている。以前にも…。」
「そのことだけど、アンドリュー・リードって誰なの?」
デヴィッドが頭を振った。
「そんなことはどうでもいい。彼は死んだんだ。」
「でも、みんなあなたのことを…」
「パキスタンの山の中で殺されたんだ。ここからそう遠くない場所で。イマリと戦っている最中にな。奴らはこの山中で人を殺すことに慣れている。これはゲームじゃないんだ、ケイト。」
デヴィッドがケイトの腕を握って、ベッドに座らせた。
「ほら、聞こえないか?遠くで鉢の羽音のような低い音がしているだろう?」
ケイトは頷いた。
「あれはドローンの音だ…無人爆撃機だよ。連中は俺たちを探している。あれに見つかったら最後、もうどこにも逃げられないんだ。さあ、ここを出て行け。」
「わかったわ。でも今日は行かない。」
「いいか。」
「明日には出るわ。約束する。」
ケイトは彼の手を取って握りしめた。
「1日だけちょうだい。」
「夜明けと同時に出発するんだぞ。」さもないと、俺はあそこの崖に行って。」
「脅さないで。」
「君だって、そのつもりはなくても脅しているんだ。」
ケイトは彼の手を離した。
「じゃあ、明日には出発するわ。」
そう言うと、立ち上がって部屋を出た。

ケイトは濃い粥が入った鉢を二つ手にして戻った。
「お腹が空いているでしょう?」
デヴィッドは黙って頷き、それを食べ始めた。
初めは勢い良くかきこみ、数口飲み込んでからようやく速度を落とした。
「ずっと読んであげていたんだけど。」
ケイトは日記を持ち上げて見せた。
「嫌じゃなければ、先を続けるわ。」
「何を読んでいたんだ?」
「日記よ、あのお年寄りが…地下にいる人だけど…私にくれたの。」
「ああ、彼か、チェンだな。」
デヴィッドは立て続けにもう二口、粥を頬張った。
「何が書いてあるんだ?」
ケイトはベッドに座り、デヴィッドが眠っていた時と同じように、自分の足を彼の足の隣に投げ出した。
「坑道の話。」
デヴィッドが鉢から顔を上げた。
「坑道?」
「戦争の話かもしれないけど、まだよくわからないの。舞台はジブラルタルで。」
「ジブラルタル?」
「ええ、それが重要なの?」
「多分な。暗号があるんだ。」
デヴィッドは鍵か財布でも探すように、ポケットの中をまさぐった。
「実はジョシュが…。」
「ジョシュって?彼がどうかしたの?」
「彼は、俺と一緒に働いていた男だ。俺たちは情報提供者から暗号を受け取ったんだ。中国の施設の情報を知らせて来たのと同じ人物だよ。そういえば、あの施設の話も聞きたいが。とにかくだ、その情報提供者が、氷山の真ん中に潜水艦が埋まっている写真を送って来たのさ。そしてその裏側に、暗号が書かれていたんだ。暗号は1947年のニューヨークタイムズ紙の死亡広告を示していた。広告は3つあった。」
デヴィッドは懸命に思い出そうとするように、下を向いた。
「確か一つ目の広告が、ジブラルタルと、そこで骨を発見したイギリスに関するものだったと思う。」
「骨が見つかったのは、この坑道かもしれないわね。ちょうどイマリが、元兵士のアメリカ人鉱山技師を雇って、ジブラルタル湾の海底に埋まる構造物を発掘しようとしているのよ。彼らはそれを消えたアトランティスの、都市だと考えているみたい。」
「興味深いな。」
デヴィッドが何か考え込むような口調で言った。
彼が次の言葉を口にする前に、ケイトは日記を開いて読み始めた。

1917年8月9日

その晩、遅くに家に帰ると、ヘレナはキッチンの小さなテーブルに向かっていた。
天板に両肘をつき、まるで力を抜くと落ちてしまうとでも言うように、両手でしっかり顔を包んでいた。
涙こそ浮かんでいないものの、真っ赤に濡れた目は、これ以上無理だと言うぐらいにずっと泣いていたと言う雰囲気だ。
その顔は、かつで病院で見かけた女性たちを思い起こさせた。
病院を去っていく彼女たちの傍では、決まって2人の男が白いシーツに覆われた担架を運んでいる。
ヘレナには3人の兄弟がおり、そのうち2人は戦地に行っていた。
1人はまだ若すぎるか、もうすぐ入隊するはずだ。
私がとっさに思ったのは、ヘレナの兄弟はこれで何人になったのだろうと言うことだった。
ドアの音を聞いた途端、ヘレナが飛び上がって食い入るようにこちらを見つめた。
「どうしたんだい?」
私は聞いた。
彼女が抱きついて来た。
「あなたが行ってしまったと思ったの。あの仕事を引き受けたか、ここを出て行ったかしたんだろうって。」
私が思い切り抱きしめると、彼女は私の胸に顔を埋めた。
そうしてひとしきり泣いたあと、顔を上げて真っ直ぐにこちらを見つめた。
その大きなブラウンの目が、私には到底解けない謎を問いかけていた。
彼女の唇にキスをした。
貪るような激しいキスだった。
一匹の獣が、ずっと追い求めていた獲物についに食らいついたと言うような。
生きるために欲し、もはやそれなしでは生きていけないとでも言うような。
腕の中の彼女はとても小さく、今にも壊れてしまいそうだった。
彼女のブラウスに手を伸ばし、ボタンを探った。
と、彼女が私の手をつかんで体を離した。
「パトリック、だめよ。私にはまだ…古風なところがあるのよ、色々と。」
「待つよ。」
「そう言うことじゃないわ。その、私の父に会ってほしいのよ。私の家族に。」
「喜んで会うさ。君のお父さんにも、家族にも。」
「よかった。来週は病院が休みなの。朝になったら父に電話するわ。向こうの都合が良ければ、早速午後の汽車で発ちましょう。」
「それは、明後日にしよう。ちょっと、準備があるからね。」
「もちろんいいわよ、」
「それから、まだ話があるんだ。」
私はどう切り出すべきか考えた。
どうしても仕事が必要だった。
少なくとも数週間分の給料は手に入れたい。
それさえあれば、新たなスタートを切れるのだ。
「あの仕事だが、実は、見に行ったんだ。それで、思ったより、危険はなさそうだし…」
まるで打たれたように、彼女の表情が一変した。
しかめた顔に不安と怒りの中間ぐらいの表情をのぞかせている。
「無理よ。私にはできないわ。あなたが無事に帰ってくるかどうか、毎日心配しながら待つなんて、そんな生活には耐えられない。」
「俺にはこの道しかないんだ。ヘレナ、これ以上に得意なことは何もないから。他に何をすればいいのか見当もつかないよ。」
「そんな話は信じないわ。男はいつだってやり直せるはずだもの。」
「やり直すよ、約束する。6週間だ。それだけ働いたらキッパリ手を引く。その頃には戦争も終わっているかもしれない。そう慣れば、彼らはまたチームを呼び寄せられる。君はここを去るだろう。俺は、金を貯めて、生活の目処をつけたいんだ。」
「お金がなくても、大丈夫よ。私にもいくらか…」
「問題外だ。」
「あなたが坑道で死んでしまったら、私は2度と立ち直れないわ。あなたなら耐えられる?」
「掘削作業はそれほど危険なものじゃないよ。上から爆弾が落ちてこなければね。」
「海が落ち的tらどうなるの?上にはジブラルタル湾が広がっているのよ。あれだけの水がずっと坑道にのしかかっているのに、そこで落盤が起きたら、一体どうやってあなたを助け出すの?自殺行為だわ。」
「海が落ちてくるかどうかは、見ればわかるんだ。」
「どう言うこと?」
「岩が湿り始めるんだよ。」
私は言った。
「残念だけど、パトリック。私には無理よ。」
彼女の目が本気だと語っていた。
決断の中には、すぐに下せるものもある。
「それじゃあ、決まりだな。あの仕事は断るよ。」
私たちはまたキスをした。
私は彼女をきつく抱きしめた。

デヴィッドがそっとケイトの手に触れた。
「ずっとこんなものを読んでいたのか?第一次世界大戦版の、風と共に去りぬを?」
ケイトはその手を押し戻した。
「違うわ!つまり、今まではこんな話じゃなかったのよ。でも、そうね…何かと栄養が不足しているあなたには、ちょっとくらいロマンス与えた方がいいのかも。ガチガチに固まった兵士の心が少しは柔らかくなるでしょう。」
「どうだかな。甘ったるい場面は飛ばして、爆弾とか秘密実験とか言ってる箇所を読まないか。」
「1ページも飛ばさないわよ。どこに重要な話が出てくるかわからないじゃない。」
「なるほど、君がそんなに夢中になってるなら、俺も我慢して付き合うとするか。」
そう言うと、デヴィッドは腹の上で手を組み、神妙な面持ちで天井を見上げた。
ケイトは微笑んだ。
「お気の毒ね。」

続く→

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