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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー61

2020.05.05.20:02


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仕留め損ねた。デヴィッドが引き金を引くより1秒早く、ドローンが2発あるミサイルの1発を発射した。
軽くなった機体はわずかにその速度を速め、デヴィッドの狙撃ライフルの弾をかわしてしまった。
薬室に次の弾を送り込み、再びドローンを探した。
今では濃い煙が、渦を巻いて立ち上っていた。
すでに寺院の大部分が炎に包まれ、火は眼下の森にも広がりつつあった。
顔をしかめて立ち上がると、意外にも足は素直にいうことをきいた。
鎮痛剤が効力を発揮しているようだ。
もっと見通しの利くポイントに、移動しなければ。
後ろを向き、そこでギョッとなった。
展望デッキの隅で、ミロが目を閉じてあぐらをかいていたのだ。
リズミカルに浅い呼吸を繰り返している。
デヴィッドは彼の肩を掴んだ。
「何をやっている?」
「うちなる静寂を求めているのです、ミスター…」
彼を立たせて、山の方へ放った。
「山頂まで行ってから求めろ。」
デヴィッドは指を差し、戻ってきたミロの体を回してまた山の方へ押しやった。
「上まで登れ。ミロ、何があっても足を止めるな。本気で言っているんだ。さあ、行け。」
ミロがしぶしぶと言った様子で、崖のくぼみに手をかけたので、デヴィッドは少しの間、岩壁を登る彼の姿を見守った。
展望デッキに注意を戻した。
端の方まで歩いて行き、そこで待った。
チャンスが訪れた。
煙が途切れたのだ。
膝をついてスコープを覗くと、照準を合わせる間も無くいきなりドローンが現れた。
先ほどとは違うドローンだ。
こっちにはミサイルが2発とも残っている。
いったい何機あるのだろう?
躊躇いはなかった。
深呼吸を一つし、ゆっくり引き金を絞った。
爆発したドローンが細い煙の尾をひいて落下して行った。
次のドローンを求めて空を見回したが、発見できなかった。
立ち上がって足を引きずりながら、デッキを横切った。
と、煙の中から色鮮やかな物体が出現し、空と森の風景が黒い雲を押し分けた。
気球だ!ケイト!
彼女と目があった瞬間、足元の山が吹き飛んでデッキの半分が消えた。
バランスを失ったデヴィッドの手から銃が離れ、音を立てて岩の上を転がった。
寺院が崩れようとしていた。
一機目のドローンが残り一つのミサイルを、打ち込んだのだ。
とどめの1発を。
不安定に揺れているものの、気球はまだそこに浮かんでいた。
デヴィッドの2、3メートル下にいる。
崩れ続けるデッキは、もはや残りわずかになっていた。
立ち上がり、デッキの端へ突進してジャンプした。
胸がカゴの縁に当たって息が止まりそうになった。
必死でそのカゴにしがみつこうとした。
ケイトの指が彼の両腕を掴んだのは、手が滑って落ち始めた瞬間だった。
彼女はデヴィッドを離すまいと、全力で握りしめていた。
が、落下は止まってもそこから先がどうにもならなかった。
傷の痛みのせいで、カゴの縁に手を伸ばすこともできなかったのだ。
下から熱を感じた。
足を這い上がって全身に伝わるそれは、刻々と強さを増していた。
デヴィッドが気球を地獄に引きづり込んでいるのだ。
ケイトに手を離してもらうしかない。
この高さなら、苦しまずに死ねるだろう。
「ケイト、俺は上がれない!」
鎮痛剤を飲んでいても、肩の痛みはあまりに激しかった。
「その手を。」
「絶対に離さないわよ。」
ケイトが叫んだ。
彼女はカゴの側面に足を踏ん張り、残った力を爆発させるようにして、彼の腕を引き上げた。
デヴィッドの手がカゴの縁を掴んだ。
彼女が手を離して去って行った。
デヴィドはじっと待った。
腕が痺れ、熱が全身を包み込んだ。
地上から一つ、また一つと砂袋が着地する音が聞こえて来た。
滲んだ汗が、カゴを握る手に広がっていくのを感じた。
指先が徐々に滑り始め、もう直ぐ燃え盛る寺院に落下するというとき、ケイトがまた腕を握った。
そしてデヴィッドを引き上げ、カゴの内側へと引っ張り込んだ。
彼女は力を振り絞ったせいで汗だくで、デヴィッドは日に炙られたせいで汗だくだった。
わずか10センチ先に彼女の息を感じた。
そちらへさらに顔を寄せ、彼女の唇に近づいた。
いよいよ唇が触れ合うという、まさにその瞬間だった。
彼女がいきなり起き上がり、その勢いでデヴィッドを仰向けに転がした。
デヴィッドは目を閉じた。
「すまない。」
「違うわ、その、触ったらわかったのよ。出血してるわ。包帯が破れてしまった見たい。」
そう言うと、彼女はデヴィッドのシャツを引き上げて、傷の手当てを始めた。
デヴィッドは洗い呼吸をしながら、気球の雲を眺めた。
この空の下のどこかで、ミロが無事に山頂に座っていることを願った。
そしていつかどこかで、彼がうちなる静寂を見つけ出せることを祈った。

続く→
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