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第二進化・アトランティス・ジーン(1)A・G・リドルー68

2020.05.27.22:14

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フラッシュ・インフルエンザの流行に関する、ホワイトハウス記者会見

アダム・ライス(大統領報道官)
おはようございます。まずは声明文を読み上げ、その後質問を受け付けたいと思います。
大統領と合衆国政府は、報道各社がフラッシュ・インフルエンザと呼んでいる保健衛生上の問題に関し、事態の把握に務めるとともに解決に向けた努力を行なっております。
大統領は本日、CDCに対して早急に脅威レベルを査定するよう命じました。
この査定結果を待つ間も、ホワイトハウスはアメリカ国民の安全を確保すべく、さらなる措置を講ずる予定でおります。
(ライスが声明文を置き、1人目の記者を指差す。)

記者
大統領は国境封鎖を予定しているのでしょうか?
(ライス、ため息をついてカメラから視線を逸らす。)

ライス
何度も申し上げているように、大統領は国境封鎖を最終手段と考えています。
封鎖をすれば、大小を問わずアメリカ企業に深刻な影響を与えてしまうからです。
無論、国民の健康に関わる問題があることは承知しています。しかし、経済的なリスクも無視することはできません。国境封鎖はアメリカ経済に極めて現実的な危険をもたらすでしょう。大勢の国民がインフルエンザに罹患する可能性はありますが、封鎖は即座に景気の後退をもたらし、インフルエンザの流行以上に国民を危険に晒すかも知れないのです。
我々はどちらの面にも配慮しながら、最適な対策を検討しています。大統領はいかなる国民も危険に晒すつもりはありません。原因はインフルエンザであっても、景気の後退であってもです。

記者
アジアや中東、ヨーロッパからの報告に対して、政府はどういった見解を示しているんですか?

ライス
深刻に受け止めていますが、慎重かつ公正に情報を見極める必要があると思っています。今の段階では十分な情報が集まっていませんし、率直に言うと、全てが信用に値するわけではないと考えています。

記者
それは目撃者からの情報について言っているのでしょうか?動画などの…。
(ライスが片手を上げる。)

ライス
インターネット上の動画には、とりわけ悲惨な状況が映されています。ユーチューブに動画を載せるときに、わざわざ自宅でくつろいでいる場面や、元気にシリアルを食べたりエアロビクスをしたりしている様子を撮るはずがありませんからね。こうした動画は特にセンセーショナルな出来事があったときだけ、投稿されるのです。
我々も今ある動画は全て見ましたし、この先も増えていくでしょう。ですが、YouTubeで目にするものを基準にして生きていると、非常に偏った判断しかできなくなります。そして今は、そのような判断こそ避けねばならないのです。これらの動画が本物かどうかさえ不明ですし、仮に本物だとしても、数ある深刻な病のどれを映したものかわかりません。
(ライスが両腕を上げる。)」

ライス
今日はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。

103

ジブラルタル、クロックタワーの隠れ家

ジブラルタル湾の夕暮れは、息を飲む美しさだった。
柔らかな色合いの赤とオレンジとピンクの光が、遠く広がる太西洋の紺碧の水面と溶け合っている。
100メートルほど先の港が途切れるところでは、大きな岩が海や陸を飲み込むほどの、迫力でそびえ立っていた。
その灰黒色とぶつかるようにして、茜色に燃え立つ陽光が、岩肌を滑り落ちていく。
ケイトはガラスのドアを開け、港の通りを見下ろす4階のタイル張りのポーチに出た。
下では武装した警備員たちが、この大きな家の周囲を見張っていた。
地中海の暖かなそよ風を感じ、ケイトは手すりにもたれかかった。
背後のテーブルでどっと笑いが起きた。
振り返るとデヴィッドと目が合った。
1ダースほどのクロックタワー の支局長や局員に囲まれて、とても嬉しそうな顔をしている。
彼らは陥落したクロックタワーの生存者たちで、今は抵抗者たちだった。
もし何も知らなければ、大学時代の級友が、集まってふざけたり近況を報告し合ったり、明日のアメフトの大一番を前に、パーティーの計画を立てたりしているように見えるだろう。
だが、ケイトは知っていた。
彼らはイマリ・ジブラルタルの本部を、奇襲する作戦を立てているのだ。
とは言え、話が戦術に関する専門的な話題に移り、建物の構造やら、入手した配置図の信憑性やらが、議論されるようになったので、こうして1人ポーチへ出てきたのだった。
まるで中心メンバーには入れてもらえない新しいガールフレンドのように。
インドからここへくる飛行機の中で、ケイトとデヴィッドは初めて警戒心もためらいも捨てて話をした。
ケイトは子供を失ったことを打ち明けた。
男と出会ったいきさつや、妊娠した途端に相手が幻のように消えてしまったことを。
流産した1週間後にサンフランシスコを出てジャカルタに移り、その後はひたすら仕事と自閉症の研究に打ち込んできたことも話して聞かせた。
デヴィッドもやはり何も包み隠さず話してくれた。
彼の婚約者は9、11の攻撃で命を落とし、彼自身も、あわや半身不随になるほどの大怪我を負ったと言うことだった。
だがその後回復した彼は、首謀者を突き止めることに生涯を捧げようと決めたのだそうだ。
これが1週間前なら、イマリが世界的陰謀を企ているなどと言い張られても、とても耳をかす気にはなれなかっただろう。
しかし機上のケイトは黙って頷いた。
そのバズルのピースがどんなふうにはまるのかはわからなかったが、デヴィッドのことは信じていた。
話終えると、2人は告白したことで安心したかのように眠りに落ちた。
最も、ケイトの眠りは途切れがちなうたた寝でしかなかったが。
1番の原因は飛行機の騒音で、部分的には椅子で寝ているという状況も影響していた。
ケイトが何度目を覚ましても、デヴィッドはいつも眠っていた。
もしかすると彼もこうして私を眺めながら、眠気が戻るのを待っているのかも知れない、とケイトは思った。
彼に話したいことはまだまだたくさん合った。
最後に目を覚ましたとき、飛行機はジブラルタルの飛行場に向けて最終着陸態勢に入っていた。
デヴィッドは窓の外を見つめていたが、ケイトが起きたことに気づくと、こう言った。
「いいかい、もう少しはっきりするまでは、日記のこともチベットのことも、中国の施設のことも黙っておこう。まだ確信が持てないからな。」
クロックタワーの局員は2人が降り立った途端に集まってきて、すぐさま彼らをこの家まで運んできた。
それ以後、デヴィッドとはほとんど、言葉を交わしていない。
背後でドアが開いた。
ケイトはハッとして期待に満ちた笑顔を振り向けた。
そこにいたのは、クロックタワー の局長、ハワード・キーガンだった。
慌てて顔から笑みを消し、彼に見られていないことを願った。
彼が外へ出てドアを閉めた。
「ご一緒しても構わないかね、ドクター・ワーナー?」
「どうぞ。それから、ケイトと呼んで下さい。」
キーガンは隣に立ったが、手すりを握ることも、ケイトに顔をむけることもなかった。
彼はただじっと夜陰が濃くなっていく湾を見つめていた。
60は過ぎているはずだが、とても若々しく見える。
いかにも頑丈そうなのだ。
少しばかり気まずい沈黙だった。
「計画はどうなっていますか?」
ケイトは聞いてみた。
「順調だ。どうせ、必要ないものだがな。」
キーガンが抑揚のない低い声で答えた。
ケイトは背筋が寒くなるのを感じた。
雰囲気を明るくしようとこう言った。
「まあ、よほど自信がおありで…」
「もちろんだとも。明日のことは、もう何年も前から計画してきたのだ。」
彼は眼下の通りの警備員たちを示した。
「あれはクロックタワーの局員ではない。イマリ警備の隊員だ。家の中のいる警備員もな。明日になれば、クロックタワーに残っている反イマリ派の局員は全て死ぬことになる。デヴィッドを含めてだ。」
ケイトは手すりを押して、体をおこし、相変わらずテーブルを囲んで笑ったり、指を差したりしている男たちを振り返った。
「どう言うこと…」
「振り返るな。私は君と取引するためにここにいるのだ。」
キーガンは囁くような声で言った。
「取引?」
「彼の命だよ。君の命と引き換えに助けてやろう。君は今夜ここを出るんだ。あと数時間以内に、全員が部屋に引き上げた後で。今夜はみな早くベッドに入りだろう。夜明けに攻撃を開始する予定だからな。」
「約束を守るとは思えないわ。」
「そうかね?私だって彼を殺したくはない。彼を好ましく思っているんだよ。私と彼はコインの表と裏にいると言うだけだ。たまたまな。だが我々は、なんとしても君を手に入れたい。」
「なぜ?」
「ベルを生き延びたからだ。そこが全ての鍵になる。理由を明らかにする必要があるのだよ。約束は守る。君は質問責めにされ、検査されることになるが、それで彼の命は助かるだろう。君にどんな選択肢があるか考えてみたまえ。我々は今すぐあの局員たちを殺すこともできるのだ。無論、こんな住宅地で騒ぎを起こせば、面倒なことになるが、不可能ではない。これは長期間にわたる作戦で、誰がこちら側へ着くかずっと様子を見てきた。彼も来てくれることを期待していたが、もう十分すぎるぐらい待った。それに君が考えるべきことは、他にもある。君が賢く交渉すれば、あの子供たちも助けられるかも知れないんだぞ。君自身と交換させると言う手立てだってあるだろう。あの2人は、君が行く施設に監禁されているからな。」
キーガンはケイトの目を見つめた。
「それで、君の答えは?」
ケイトは唾を飲み、首を縦に振った。
「わかったわ。」
「もう一つある。機内の録音音声を聞いたが、君とヴェイルは日記の話をしていたな。それを渡してもらいたい。我々がずっと探していたものだ。」

続く→
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